敗戦から今年は、六十年にあと一年と云う。ゆうに一世代の月日が流れたが、無着成恭の「やまびこ学校」が放った問題は、今も解決されること無く佇み、置かれて居る様に見える。敗戦直後、空腹と何の設備さえない粗末な校舎で、皇国教育のもとに置かれてきた子供達が、無着成恭先生の影響の下に、社会に目を開き、貧しさの原因、因習的な村の現状など、日常の中にある問題を取り上げ、それらの調査やら詩や作文を収めた学級誌ー「きかんしゃ」を作り上げる。その子供たちの戦後40年の歳月を追い、還暦に達しようと云う子供たちの人生を、戦後日本が辿った時間と重ね合わせ綴る、本当に感動的ドキュメンタリーである。
佐野氏がこの本に、相当の精力を注ぎ込まれた事がハッキリと分る力作であった。「旅する巨人」と同様、佐野氏の最も優れた作品であろう。