観る者すべてを狂わせずにはおかない、あまりにも危険な《カルメン》だ。その秘密は、もちろんカルロス・クライバーの魔術のようなタクトにある。ウィーン・フィルの音が、ドクンドクンと脈打つ鼓動のように高鳴りながら、妖しく、重く、しかもスピーディに、喉元に突きつけられたナイフのようなリアリティを持って迫ってくる――これを聴いて誰が冷静でいられようか! 映像をよく観ると、どんなに音楽が熱く燃えていても、クライバーの指揮はますます肩の力を抜き、リラックスした緩急自在でしなやかな動きで、オーケストラや歌手を鮮やかに翻弄する。
細部の描写に徹底的にこだわりぬいたゼッフィレッリの演出・美術は、まるで動く一幅の絵画のように美しい。舞台には生きたスペインの人々の熱気が充満している。この群衆一人ひとりの生き生きとした表情を見るだけでも何と楽しいことだろう。これぞオペラを観る醍醐味だ。
そして、何と言っても若きドミンゴの色気、声の艶やかな力が素晴らしい。特に「花の歌」や最後のシーンなどは、全身全霊をつくした絶唱で、ホセの愛がこれほど深いものだったのかと、思わずうならされるほどの圧倒的な出来栄えである。うるさがたのウィーンの聴衆も完全にノックアウトされ、劇場が異常な興奮のるつぼと化している様子が伝わってくる。ドミンゴのファンならずとも、このホセは必見である。対するオブラスツォワ(まだ若く痩身!)のカルメンは、情に厚く根は優しい女といった性格描写に不思議なリアリティがあり、近年のフェミニズム的な自由で強い女志向のカルメン解釈からすると、かえって新鮮に感じられる。リズム感はいまひとつだが、絶好調のドミンゴを相手に一歩も引かぬあたり、さすが大歌手の貫禄だ。
1978年ウィーン国立歌劇場のライヴ。最新の収録のものに較べれば、やや古い画質と音質だが、生々しさはよく伝わってくる。(林田直樹)
una
★★★★☆
当然ながらDomingoはすばらしいし、Obraztsovaの重量級と言うか、声量豊かな歌唱も迫力があるし、Buchananの初々しい歌いっぷりも役柄にはまっていて、とても楽しめます。でも何よりも印象に残るのは、Kleiberの指揮姿と、そこから生まれるオーケストラの音です。あんな風に指揮(と言うか身体表現)をされたら、オケのメンバーもどんな音が欲しいか瞬時で分かるでしょうね。分かって、その音が出せるオケもすばらしい。私が偏った聞き方をしているのかもしれませんが、時々、オケの情熱的、扇動的(衝動的?)、躍動感あふれる演奏が、歌を食っているように聞こえるところもあります。何となく、「舞台よりも指揮者を映してほしい」という気分になるDVDでした。
クライバーファンなら☆100個
★★★★★
カルロス・クライバーの貴重な映像として価値ある1枚。
何度も観ていると、1幕冒頭、ほんのわずかに硬さはみられるものの、
すぐにペースに乗り切って振っているのも手に取るようによく分かる。
2幕冒頭、観ている側は「限界ではないのか。破綻するのではないか」と
ハラハラしながらも舞台に呑み込まれそうになる。間違いなく見所。
空中分解せずに見事演奏しきったウィーンフィルは流石としかいいようがない。
1幕終えるごとに指揮者は、余韻も残さず颯爽とピットから去ってしまう。
が、3幕と4幕の間は休憩がないため、幕間はそのままピットに控えている。
その瞬間、観客からの万雷の拍手を受けているのはピットなのに、
黒子としての意識からか、その歓声に応えるでもなく、
次幕のスコア確認に余念がない様子が、クライバーらしい。
舞台全体としては、重箱の隅をつつこうと思えばつつくポイントはいくつもある。
録音・カメラワークなど、「オペラファン」には不満点もあろうが、
それらすべてを差し引いても、
あの伝説のカルメンが正規盤の体裁で、クライバーの数少ないディスクに加わったのだ。
持つべき1枚だ。
直前のキャスティングだったというブキャナン(ミカエラ役)の出来が
大変素晴らしかったことも言い添える。
総合的には高いレベルだが、ラテンの香りがしないカルメン
★★★★☆
舞台装置・オケの出来栄えは勿論のこと、群集の一人一人までもが実に生き生きと演じており、上質の仕上がりとなっているが、ビゼーの味わいというか軽やかなラテンの香りが無く、ドイツオペラ的違和感を禁じ得ない。また、入れ込み過ぎでは?と思われるクライバーの指揮故か、メインの歌手陣も歌唱にやや吼え過ぎの感あり。ドミンゴは小生の好みではないが最盛期の素晴らしい歌唱には脱帽。オブラツオワは、2幕の「ジプシーの歌」を筆頭にして音程の定まらないところが散見され、高声部で装飾音を転がす箇所や小刻みな節回しのところでは、喉の硬さというか不器用さも露呈していた。奔放さは出しているが女猫のような軽やかさは彼女には望むべくもなくミスキャストではないか。ミカエラは、若干ビブラートが気に成りはしたものの初々しい演技と確かな歌唱で、ドミンゴに次ぐ拍手を得ていたのも頷ける。カメラワークは、必要以上にアップや局所的ショットが多く、全景を見たいという歯がゆさを覚えることが多かった。
絶好調のクライバー!
★★★★☆
クライバーはオペラを指揮した映像をいくつか遺しているが、どれもダイナミックで生命力豊かで、観ているものを惹き付けずにおかない魅力をもった素晴らしい演奏だ! このカルメンも例外ではなく、舞台の華やかさに負けずクライバーの演奏は大胆でいて華麗な指揮振りで舞台に釘付け間違いなし‥! 前奏曲からクライバーの魅力全開!相変わらず颯爽たる指揮振りはカッコイイの一言‥! しかし大胆でいながら、歌い手のサポートは非常に繊細‥。カルメン役のオブラスツォワの勇み足をさりげなくフォローする手腕は本当に素晴らしい! 歌い手もクライバーの指揮に身を任せ、万全に近い出来栄えで、オブラスツォワの演技と歌は少し濃厚で、さらにスタイリッシュさが欲しいが素晴らしいカルメンを聴かせてくれる。ドミンゴはまさに絶頂期の歌唱で演技も歌もスキがない!‥唯一、このカルメンにケチを付けるとすれば、画像と音声にノイズが多いのと、カメラアングルが良くないことだ‥。おい、おい、どこ撮ってんのって箇所がいくつかあるが、このクライバーのカルメンは素晴らしい演奏だ!彼の類い稀な遺産として、是非とも手元に置いて欲しい作品だ‥。
おお!すばらしい!
★★★★★
「アイーダ」に続き、ドミンゴ出演作品の「カルメン」を買いました。いやぁ本当にドミンゴはすばらしい!12歳の僕が言っても参考になるかわかりませんが・・・
4幕の二重唱はわぁと思いましたよ。歌劇場に響き渡る伸び伸びと大きく、もうなんといっていいかわからないのですよ。1幕の、ウィーン少年合唱団が、歌劇を盛り上げています。
自分も舞台にあがってみたいなぁと思うんじゃないですか、このDVDをみるとね。