死にたくなかったんだ!
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死にたくなかったんだ!という思いが、ひしひしと伝わってきます。理不尽で、みじめで、どん底で。水木さんの中に渦巻いていたどろどろした感情が、戦死した仲間の感情と一緒になって、噴出しています。水木さん、とても上手に伝えてくださっています。
この夏に話題になった「永遠の0」とともに、この水木さんの作品では、玉砕や特攻隊のシステムは、国のために死ぬことを美化した日本人気質が災いしたのだと、気づかされました。先日お会いしたタクシー運転手さんは特攻隊の予備軍だったそうです。彼は、「当時は、死を怖いとは思わんかったね」と仰っていました。けれども、終戦を迎えて実家に帰ったら、両親が大喜びで万歳をしてくれたとのこと。
やっぱり、何があっても、戦争をしてはいけないと、強く考えさせれられる作品でした。
水木、100まで生きろ!
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1943(昭和18)年、水木しげるは21歳の時に召集され、ニューギニアのラバウルへと送られた。そして戦後、その過酷な戦争体験をもとに「総員」が「玉砕」へと向かわざるを得なかった当時の理不尽な状況を描き始める。
本作は、2007(平成19)年8月12日にNHK総合で放送されたNHKスペシャル「鬼太郎が見た玉砕〜水木しげるの戦争〜」をDVD化したものであり、水木しげるの『総員玉砕せよ!』をドラマ化した作品である。
とりわけ、香川照之が演じる水木しげるが『総員玉砕せよ!』を取り憑かれたように執筆している際、その漫画の原稿を夜中にのぞき見たねずみ男が泣きじゃくっている姿は印象深い。そして目玉のおやじの「愚かしい国だった、愚かしい時代だったんじゃよ」という言葉が心に響く。
水木自身は左腕を失いながらも、九死に一生を得て駆逐艦雪風で日本本土へ復員できたが、仲間とともに死ねなかったという思いも強かったに違いない。それを『総員玉砕せよ!』を描くことによって果たしたかったのであろう。是非、本作とともに原作も一緒に見ていただきたいと思う。
もう一度見たいNHKスペシャル……それがDVDになった!
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質の高いNHKスペシャルを手軽に観られるのは、とても嬉しい。
「芸術祭」で賞を取らなければ間違いなくDVD化はなかっただろう。
もう少し手頃な値段にして、他の作品もどんどんDVD化してもらいたいものだ。
「戦争を知る」というよりも、生きる、生きたいとはどんな事なのか、それを90分で理解できる。昭和17年と昭和46年の水木しげる氏のドラマが同時進行することで、その効果はいっそう増す。芋やバナナを「心の底から美味い!」と思うことが出来ない現代人……私も含めて考え直さなければいけない課題である。
特典映像は必見である。
水木氏のインタビューで、この漫画原作で、読者に訴えたいことを聞かれたときの回答は傑作である。
その他、メイキングも傑作だ。映画並みの製作である。このドラマをフィルムで撮影できなかったのが惜しまれる。
香川照之は今人気の俳優だが、役作りの力の入れようが凄い。漫画から飛び出してきたような演技をする。彼のベストワークの一つだと思う。
注意しておきたいが、このDVDはドキュメンタリーではない。戦記漫画「総員玉砕せよ」を再現VTR、昭和46年の水木氏は、脚本家が創作したフィクションであり、完全な「ドラマ」として考えるのが正しい。
ジャケットに鬼太郎とねずみ小僧が写っているのは流行を狙ってのことだろうが、それだけを期待して購入するのはちょっと……と、鬼太郎マニアには伝えておきたい。
理不尽な玉砕
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ラバウルでの日本軍玉砕を、水木の体験を元に書かれた問題作、総員玉砕せよ。
度々水木は戦争ものを書いてきたが、ここまで生々しい記録漫画は、おそらくない。正に、一世一代の作品だろう。
それを元にして、セミドキュメンタリーという形で、この作品は制作されている。
そもそもドキュメンタリーとしての価値が高い作品であって、感動する部分はきわめて少ない。
だが、当時何があったのかを知る資料としては非常に有効であり、戦争を生き抜いた水木の苦労や、鬼軍曹の幽霊が水木に合いに来るシーンは、目頭が熱くなる。
下らないアニメをみるよりは遥かに良く、ドキュメンタリー作品としては一級品である。