小粒だが尻上がりの出来の第10シーズン。第4話には、このテレビ版の底力すら感じる
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今回の第10シーズンの作品は、全体的に小粒であることは事実だろう。しかし、元々、ポワロ物長編原作には、1作たりとも凡作がないうえに、一つ一つの作品が、実によく練り上げられた脚本と演出で仕上げられており、第2話と第4話では、原作では前半ほとんど出番のないポワロを全編にわたって巧みに活かし、第3話、第4話と、尻上がりに作品の出来も良くなっている。
まず、「青列車の秘密」だが、これには驚いた。全編にわたって、かなり大掛かりな改変が行われているのだ。特に、あの「オリエント急行の殺人」ばりに、関係者全員に被害者を殺す動機を設定し、全員を青列車の乗客とする改変が際立っており、明らかに「オリエント急行の殺人」を意識した名場面とラストまで用意しているのだ。「葬儀を終えて」は、複雑な親族関係をシンプルにしたうえで、独自の人間関係の描写を織り込み、遺言書の偽造というエピソードも加えているが、基本的には、原作をかなり忠実に再現している。
「ひらいたトランプ」は、面白かった。シェイタナという不気味な人物によって仕掛けられた密室での晩餐会と、彼に招かれた人に言えない秘密を抱え込んだ登場人物たちという奇抜な舞台設定を、本格派ミステリとして、実に鮮やかにまとめているのだ。また、このテレビ版では、重要な部分の幾つかを大きく変えており、これはこれでその上手さに感心させられるのだが、原作の処理にも捨て難いところがあり、原作も、ぜひ、味わってほしい作品だ。
「満潮に乗って」は、壮絶な愛の物語であり、疑いなく、このシリーズのベスト作だ。67分頃からの劇的な盛り上がりは見事で、特に、テレビ版オリジナルの関係者が一堂に会した中で、ポワロが、息をもつかせぬ展開で、次から次へと事件の謎を解明していくシーンは圧巻であり、クライマックスでのオリジナリティ溢れる凄まじい真相には、このテレビ版の底力を感じずにはおれない。
新シリーズも最高
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デビッド・スーシェが名探偵エルキュール・ポワロに扮するミステリ・ドラマシリーズが21世紀に復活。ヘイスティングスやミス・レモンと分かれて引退したポワロが復活した後を描く今シリーズは、原作でおなじみの従僕のジョージが新たなパートナー(?)となる。
「青列車の秘密」では謎の黒人美女が魅力的。
原作では格差問題などの人間関係がいまいちだと感じた「満ち潮に乗って」「開いたトランプ」は、原作の良さをそのままに現代風の解釈で再登場。
特に「開いたトランプ」はブリッジのスコアから心理学的に推理を働かせる作品であるため、元々映像化に適していたためかとてもよくまとめられていたと感じた。
おなじみのメンバーがいなくても、ポワロの面白さは健在。
この勢いで「カーテン」までのすべてを映像化してほしいと思う。