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Pay it Forward

価格: ¥1,048
カテゴリ: ペーパーバック
ブランド: Black Swan
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   キャサリン・ライアン・ハイドの『Pay It Forward』は、よく車のバンパーに貼り付けてあるステッカーのフレーズ、「地球のことを考えよう、まわりの人のために行動しよう」を大前提に書かれたような小説だ。この物語の主人公トレヴァー・マッキーニは12歳。ある日、社会科の先生が出した「世の中をよくするにはどうしたらいいか考え、実践しなさい」という宿題をきっかけに素晴らしいアイデアを思いつく。トレヴァーの考えはまさにシンプルそのものだった。まず、3人に親切な行いをする。次にその3人は、ほかの3人に自分の受けた親切をお返ししていく。
 「そしたら9人が助かるでしょ。そのお返しが27人にいく…。そうやってどんどん親切の輪が広がっていくんだ」
   だが、トレヴァーの試みは最初の3人ですでに挫折しそうだ。力を貸したはずの麻薬常用者は刑務所へ逆戻りだし、年とった女性の庭の手入れを手伝ったものの、どうしたことか庭の草木が枯れてしまう。しかし、この少年が自分の計画をあきらめてしまったあとも、その親切な行動は思いもかけないところで実を結び、じきにその運動はじわじわと広まり、ついにはアメリカ全土を駆け巡ることとなる。

   トレヴァー自身も、少しは救われることができそうだった。彼の父親は家族を置いて出ていってしまい、置き去りにされた母親アーリーンは、アル中と男を見る目のない自分、そして深い絶望と必死に戦っている最中だ。そんなとき、新任の社会科教師ルーベン・セント・クレアを見たトレヴァーは、世の中を変える方法だけでなく、母親の人生をやり直させる方法まで思いつく。

   もっともルーベン自身も悩みを抱えていた。ベトナム戦争で深い傷を負った彼は、なかなか他人に心を開くことができない。いやと言えないし、愛を受け入れることもできないのだ。実は、このアーリーンとルーベンの関係が本書の中核である。2人の傷ついた大人たちは、トレヴァーが自分たちに与えてくれた信頼と愛情に「お返しする」ことを学んでいくのである。

   ハイドはいろいろな観点から物語を進めていく。手紙を使ったり、日記を挿入したり、トレヴァーの計画に携わったさまざまな人たちによる一人称や三人称の語りを使ったり、と工夫を凝らしている。たとえば、トレヴァーが助けようとした麻薬常用者ジェリー・バスコーニはある晩、ゴールデン・ゲート・ブリッジから身を投げようとしている若い女性にこう語りかける。

    なあシャーロット、俺は麻薬がやめられない。一度もやめられたことがないんだ。どう考えても立派な市民じゃない。でもな、くそっ、思ったんだよ。とにかくお返しだけはしとこうって。あのガキ、俺を助けようとしてくれた。もちろんうまくいかなかったさ。でも、こんな俺でもあんたを助けようとしてる。あんたは飛び込んじまうかもしれない、そりゃそうだ。そんなこと俺にはわからない。でもこうやってあんたを助けようとしてるだろ? なあ、ひとつだけ言わせてくれよ。ある朝目が覚めたら、誰かがチャンスをくれたんだ。降ってわいたようにさ。まるで奇跡じゃないか。それが明日、あんたの身にも起こるかもしれないんだぜ。え?

 『Pay It Forward』は、フランク・キャプラの代表作『素晴らしき哉、人生!』を思わせる作品だ。あの映画と同じく、この小説の中心にあるのも、楽天的な考え方に決して消されることのない、砂をかむような厳しい現実だ。たしかに、たった1人の力が世界を変えることもある。少なくとももっとましな世の中にする手助けになる。だがそれでも、病気や肉体的苦痛、心の痛みや悲劇は人間の一部であり続けるのだ。まっすぐな気持ちと感傷との間にある一線を、ハイドが踏み外している箇所もときには見受けられるが、鼻につくほどではない。たとえ、ちょっと感情に流されている箇所があったとしても、みんなが悲観的になっているこんな時代に、これほど希望に満ちた物語をさらりと書き上げる勇気に比べれば、どうってことはないではないか。