とはいえ、本書は「正しく、美しい」日本語を学ぶための本ではない。なにしろ回答者は、劇作家である井上ひさし。ひねりを利かせたエッセイには、言葉への鋭い感覚と、生きた言葉に対する敬意と、柔軟な姿勢が感じられる。
文章作法などで目の敵にされている紋切り型についてどう思うかという質問に対しては「私は紋切り型表現の支持者」と断言。また、「すみません」の乱発をどう思うかという質問には、どんなに貧弱で貧困であれ、あいさつ言葉はないよりましと応じ、「一番最初」、「いま現在」といった重複表現は間違いではないかという質問に対しては、話言葉で使われる重複表現は強調と印象づけの意味があるからおおいに使うべし、という具合。
耳障りな表現、誤用と思われる表現にもそれなりの理由があることを教えてくれる。日本語の意外な実力と魅力にも気づかされる。日本語の乱れにとまどいや怒り、嘆きを感じている人は、本書を読めば心が安まるだろう。(栗原紀子)