遺伝子研究の専門用語になじみのない読者も心配はいらない。リドレーは難解な科学用語を普通のことばに置き換えるにあたって、いくつかの単語や概念についてはやさしい説明を加えた。文章はくだけた、肩のこらない、ときおりジョークを交えた語り口で、読者は無理なく23の染色体の話を読み進み、もっと読みたかったと惜しみながら読み終える。「ヒトゲノム計画」は原子分裂と同じで世界を一変させる大事件だ、というのが著者の解釈である。そうだとすればリドレーは、非常にエキサイティングな時代―― ガン治療の希望もあるかわりに優生学が幅をきかせる恐ろしい時代―― について、耳傾けるに足る詳説をほどこしてくれたことになる。人間の体の未来に興味がある読者なら、キレが良くとにかくおもしろい本書を読み、一歩先を行こうではないか。