1991年に体制が崩壊し、生物兵器プログラムに終止符が打たれたロシアには、旧ソ連時代の相当量にのぼるウイルスの行方が不明であり、武器に利用しようとする国やテロリストの手にそれらが渡ったのではないかとの不安を生んでいる。さらに恐ろしいことには、ワクチン耐性をもつ新しい天然痘ウイルスが研究されている可能性もある。このゾッとするような現実に焦点をあてたのが、興味深く恐ろしい、かつ重要な意味を持つ本書である。
ニューヨーカー誌の長年の寄稿者で、ベストセラー『The Hot Zone』(邦題『ホット・ゾーン』)を世に送り出した著者プレストンは、敏腕ジャーナリストならではの筆力で、本書をSFスリラーのように仕上げている。天然痘ウイルスの専門家や医療従事者、米情報機関の関係者たちへの幅広いインタビューをもとに、本書は天然痘ウイルスとその歴史や、世界保健機関のスタッフの勇気ある行動によって天然痘がいかに撲滅されていったかを詳細に伝えている。
プレストンはまた、残存するウイルスを完全に死滅させるべきか、あるいは天然痘の治療法が発見されるまで残しておくべきかの2つの意見の対立についても説明する。これは科学者間における大きな論点である。ウイルス研究が生物兵器の開発競争の引き金になる恐れがあるという意見がある一方で、天然痘が大発生したときに対応できるワクチン量が足りないのでさらなる研究が必要だとする意見もある。本書でも触れられている2001年10月に起こった炭疽菌事件は、現代の生物兵器戦争の危険に拍車をかけた。
この力強い本書においてプレストンが雄弁に語るように、一度は封じ込められた天然痘は、人間の弱さゆえに再び解き放たれた。プレストンは言う、「このウイルスが生き残る最終手段は、宿主を誘惑してパワーの源になることだった。私たちは天然痘ウイルスを自然界から撲滅することはできるが、人間の心から消し去ることはできないのだ」と。(Shawn Carkonen, Amazon.com)
--このレビューは、同タイトルのハードカバーのレビューから転載されています。