「フレイジャー」最終シーズンはこれまでのエピソードのつじつまを合わせるシーズンでもあるわけだが（本シーズンでケルシー・グラマーとデビッド・ハイド・ピアースはエミー賞を受賞した）、その中でマーティン・クレイン（ジョン・マホーニー）は、こう言って息子を元気づけている。「毎日がマンネリで、もう2度と何もおもしろいことなんか起こりっこないと思うときには、バン！　とぶち壊してみることさ」。同じことはこの「フレイジャー」の最終シーズンにも当てはまるだろう。何度もエミー賞に輝いたこのドラマがこれまでテレビをカウチでだらだらと観ている視聴者を飛び上がらせてきたからといって、11シーズン目ともなれば、さすがに新鮮みがなくなってくる。だからここでバン！　とぶち壊してみせた。かつて脚本を担当していたクリストファー・ロイドとジョー・キーナンが戻ってきたのだ。バン！　ウェンディ・マリックが生意気なクラブ歌手ロニー・ローレンスを演じて、完璧なキャストのアンサンブルに加わり、マーティンを恋愛対象とみなすようになる。バン！　ナイルズと結婚してからあまり働かなくなったダフネ（ジェーン・リーブス）が妊娠する。バン！　フレイジャーが独自にクリニックを開業する。バン！　ローラ・リニーがゲスト出演し、女運のないフレイジャーにとって理想の女性となるシャーロットを演じる。本シーズンはきら星のごときゲストのおかげですばらしい仕上がりになっている。ゲストは傑作ドラマの最終シーズンという重大な場面で底力を発揮しているのだ。ペニー・ジョンソン（「24」）、サラ・シルバーマン（『スクール・オブ・ロック』）、ダン・カステラネタ（「シンプソンズ」のホーマー・シンプソン役）がフレイジャーの患者になる("The Return of Maris")。ジェニファー・ティリーが軽薄でおもしろおかしくて行きずりの恋の相手としては最高の女性を演じる（"Miss Right Now"）。ローリー・メトカルフがエマ・トンプソンに代わって、フレイジャーの最初の妻、子どもたちの人気者ナニー・G役で登場する（"Caught in the Act"）。どのシーズンでも登場が待たれているリリス役のべべ・ニューワース（"Guns'N Neuroses"）、あざといエージェント、ビービー役のハリエット・サンソム・ハリス（最終回の"Goodnight, Seattle"）も顔を出す。
   だが「フレイジャー」は人目を引く俳優陣を頼みとしてきたのではない。「フレイジャー」がおもしろいのは、何といっても脚本のよさにある。"Boo"、"The Doctor Is Out"、"Coots and Ladders"、"Caught in the Act"には「フレイジャー」ならではの、ウィットと笑劇をうまく取り混ぜた持ち味が復活している。人間関係に大きな変化が生じ、フレイジャーがとうとうマンネリを打破して自分の心に従って生きることにする最終回は、ファンの期待を背かない満足のいく内容になっている。（Donald Liebenson, Amazon.com）