最初、クルマの中で見たのですが、「ただいま」という曲を聞いたときには、わたしは涙を流していました。
「愛してる」とか「君を守る」とか、キモチに説明を加えたコトバを羅列してうたうアーティストをたくさん知っていますが、それらのほとんどのものが、わたしのこころにはとどきません。
一青さんのうたは、たとえばその詩に独特のコトバのリズムがあり、そうした詩に単純なコトバの意味だけを追いかけてなぞったとしても、これは無意味なことになります。
意味の繋がらない表現もおおいです。
まあ、だからこそ「詩」ではあるのですが。
彼女の唄は素晴らしいです。
思いを字面だけで伝えようとすることの限界が、歌うということで昇華されるのでしょう。
意味をコトバの模索で受け取ることの限界というか、コトバ依存の人間観では受け取ることの出来ない「感動」が、彼女の歌唱と唄の組み合わせの中に隠れているようにおもうのです。
感動しました。
見ないと損をしますね。ええ。

コンサートは二部構成になっています。一部は一青窈とピアノ武部聡志氏の演奏、二部はパーカッション、アコースティックギター、それにストリングスの４人での演奏です。この小ホールでのコンサート会場は音響がすばらしく、アカペラで歌う一青窈の声がきれいに響いて録音されています。靴のコツコツという足音も聞こえるくらいの反響です。

どの曲もすばらしいですが、特に「受けいれて」は、一青窈の気持ちが高ぶって、この日最高の歌唱をしています。バックの演奏もそれを感じ受けて盛り上げています。朝倉真司さんのパーカッションは、多彩な音が出て、この小ホールでは一青窈との声と抜群のコンビネーションでした。朝倉さんのコーラスもとても良かったです。クラッシャー木村ストリングスも、クラシック演奏の時のように引きっぱなしではなく、一青窈と掛け合いで演奏するので、相当なテクニックと経験の持ち主のメンバーですね。

このDVDは、いつものパワフルで突き抜けるような一青窈ではありませんが、もう一方の一青窈の静かで深い一面を表現しています。

彼女の歌は、詞の内容や声質からノリ重視のライブというよりも、
繊細な表現も聴き取れるクラッシックっぽい雰囲気の方が合っているように感じます。

クラシックの演奏会場として使われることが多い東京文化の雰囲気が、
彼女の歌がよりストレートに伝えてくる貴重なＤＶＤです。
チケット売り切れで、聴きに行けなかったのが悔やまれます。

もちろん、本ＤＶＤにはない、江戸ポルカや茶番劇、どんでん返しのようなノリノリ曲もいいのですが。ノリノリの方はＮＨＫホールのライブのＤＶＤで楽しみましょう。

中島みゆきやユーミンでもシンガーソングライターは、歌で自分の人生を直接訴えるということは今まであまりなかったように思えます。昔は夢を与えるのがスターの役割だったのでしょうがアンジェラ・アキ以来でしょうか、孤独な自分の悩みや迷いを訴えて癒しを求める人の共感を得るのが時流の様に思います。その点ではDVDというメディアは歌だけではなく歌手の表情が分かり易く直接的に訴える力があり、CDよりもこれからの主流になるのではないでしょうか。さて前置きが長くなりましたが、彼女の正直な語りは不思議な魅力があり歌をより深く感動的に味わえ、またこのDVDは映像もクリアで音質も満足できるもので買って良かったと思います。

映画「山桜」のしおりの曲が聞きたくて、安価だったので購入しました。
生の歌声のほうが断然よいです。

それに彼女の生い立ちや曲を作った時の心境が語られていて感無量になりました。
大切な人がいる人、失った人、おすすめです。