グローバルな観点
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1937年生まれの元大学教員で反戦平和団体ピースデポ代表である著者が、2006年に刊行した小著。米軍は1997年以来、あらゆる分野における軍事的優位の確保を目ざし、非対称戦争を念頭において、ITを活用した統合軍の形成、兵員数・物量重視から軍事能力・機動性重視への転換、西欧・東北アジアへの「過剰」配備の是正と米本土への米兵の呼び戻し(生活環境規準ゆえ)、同盟国の「主体性」を引き出すことによる権限の分担、「蓮の葉戦略」に基づく地球規模での米軍部隊の運用とそのための各国の法整備等を進めている。これに対応して、ドイツと韓国では兵力が大幅に削減され、逆に東欧・イラク・アフガニスタンでは前進基地が新設され、グアムの基地機能も強化されたが、中央アジアではロシア・中国の牽制により、基地の確保は難航している(18〜19頁)。こうした米軍再編は、日本については日米安保条約の条項に抵触するが、小泉政権は故意にこの点を曖昧にし、自衛隊の陸・海・空統合運用と日米合同司令部の設置(事実上米国への軍事的従属)、弾道ミサイル防衛における協力、多国間合同軍事演習、自治体の協力義務付け等の実現を、議論ではなく既成事実の積み重ねによって企図している。また、在日米軍基地の一部は日本に返還されるものの、他の基地に代替機能を準備することも同時に要求され(日本の資金を用いて)、またキャンプ座間と横田基地には日米の司令部が置かれる(裏表紙)。こうして米軍再編は、世界各国をも同時に再編しつつ、米軍の世界的展開を効率化するものであり、日本をより一層米軍の戦争に巻き込むことになる。著者はこうした動きに警告を発している。個々の動きに惑わされず、在日米軍問題をグローバルな観点から位置付ける本書からは、学ぶことは多い。
米軍再編の狙いをわかりやすく解説
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今、米軍再編とその一環である在日米軍基地の再編が、地元民の声を完全に無視する形で急ピッチにすすめられています。この「再編」は最近はじまったことではなく、冷戦以後の米軍の世界的な軍事戦略の一環としてすすめられている。この「再編」とは具体的にどのようなものなのか、またその狙いはなにかが、本書で明らかにされていきます。米軍再編を支持する政治家らは「北朝鮮や中国などの脅威がある以上、日本の国土を防衛するためには再編が絶対に必要」といいます。ところがこの「再編」は、これまでの基地は維持し、それに「前方」に兵力を展開するための跳躍台としての役割を果たさせることを目途にしています。つまり今回の「再編」は基地がある国や地域の防衛が目的なのではなく、軍を他国へ迅速に展開・侵略するための足場をつくることにある。また自衛隊の事実上の米軍との「統合」がなされれば、自衛隊は米軍に従属し他国を侵略する軍隊へと変貌する。まさに「日本を米国の世界戦略にますます従属させ、憲法の平和主義を空洞化させ、さらには日本の政治的、社会的秩序の転換を加速させる」取り決めが、日米の支配層の間で着々と取り交わされています。米軍再編問題は、沖縄をはじめとする地元民のひとたちに被害が押し付けられる「基地問題」であると同時に、わたしたちが他国を侵略する足場を提供するということでもあります。ですから、こうした文脈のもとでなされる憲法「改正」とは、侵略者になる主体的な選択をすることに他なりません。1,2時間で読めます。「再編」について知るべき基礎的な知識を丁寧に論じています。とてもわかりやすいので、学習会などでおおいに利用できます。