探偵小説の原理
★★★★★
◆三要素の照応
「作者―作品―読者」≒「犯人―被害者―探偵」
◆探偵小説は「人間」を描かない?
上記のような批判は、昔から繰り返し言われ続けてきた常套句です。
しかし、そもそも古典的な探偵小説では、主要人物の
内面描写が原理的に禁じられているのです。
すでに死んでいる被害者はもちろん、すべてを知る犯人、
そして最後に謎解きを披露しなければならない探偵の内面は、
できるだけ描かないほうが無難だといえます。
上記のことに加え、著者は探偵小説が内面性や精神性を欠如した
「群衆」という存在を近代小説の世界にはじめて導入した試み
であったと指摘しています。
◆「見えない人」
我々は、それぞれに固有の存在でありながら、他者から見れば
あるインデックスで機能的に一義化されざるを得ない存在でもあります。
その典型例は「職業」でしょう。
我々は日常において、たとえばコンビニの店員を
職能以外の観点から普通は見ようとはしません。
近代小説では、その店員の、他者と交換不能な内面を克明に叙述していく
スタイルがとられますが、探偵小説では違うと著者は主張しています。
「私は私である」と自己を特権化するのではなく、個性を職能にまで摩滅させる
社会の暴力を逆手にとり、心理的トリックを用いることで、「私は私ではない」
という異様な事実を提示していくのです。
以前に読んだんだが,
★★★☆☆
どっかに連載していたのが乗ってるので既読感が抜けなかった。
著者は読まずにカンで様々な哲学を論じているといわれているが、創作に役立たせているというより別個に組み立てている印象が強い。
かなり昔の論が載っているからこの本が賞を受けると言うのはあまり論がこのジャンルにおいて日本では少ないのだと思う。
アメリカなんか過剰にあるように思えるが。
序説を超えた序説
★★★★★
笠井潔の探偵小説観が一冊にまとまった非常にお買い得な評論集です。探偵小説の要素をひとつひとつバラバラにして語っているのでとてもわかりやすい。
また現象学的探偵小説論ともいうべき内容なので、読んでいる内に自然と現象学についての知識も得られます。序説と銘うたれていますが、内容は濃いです。