ナチスと「理想主義」
★★★★☆
この本は、ナチスの演説や映画、教育などを分析することで、ナチズムが「政治宗教(宗教のような政治思想)」だということを明らかにした本です。
つまり、ナチズムも宗教や共産主義と同じく、基本的には「理想主義」ということであり、この本を読めば、共産主義に夢を託し、理想を見た人々がいたように、戦前、ナチスに夢を託し、理想を見た人々がいたとしても、なんら不思議ではないということが、よく理解できると思います。
ナチズム、共産主義、宗教に共通する、「善悪二元論」「選民思想」「ユートピア思想」などは、人間が考える「理想主義」のある種の型なのだと思います。
ユニークな視点からナチズムを分析
★★★★☆
本書はヒトラーの演説、映画、教育、ジョーク、夢の観点からナチズムの何たるかを論じている。とくに興味深いのは、ナチズム下で民衆の間で流布していたジョークを取り上げた章と、ナチ時代の人々が見た夢を分析した章だ。この観点は様々な場面に応用されうるものだろう。例えば、昭和前期の人々が見た夢から当時の時代背景を再構成する仕事があるなら読んでみたい。
宣伝・言語の方法論
★★★☆☆
ナチスドイツの宣伝方法が詳細に述べられています。
ヒトラーの言葉に多くバイブルからの引用があることや、リーフェンシュタールの映像まで。
その方法は圧巻です! ただ「独裁に対する一義的判断を下すこと」を推奨していると
とられるような表現があるのも確かです。(P89)
多くの未邦訳書も紹介してあり、迫力は十分。普通に読んでも十二分に楽しめる内容です。ぜひおすすめします。
浮かび上がるユートピア
★★★★☆
結局のところ、ナチズムやヒトラー神話というのは大衆に夢を見させて幻惑させるユートピア思想だったように思います。
堅実で真面目な議会制民主主義なんか大衆からしたら面白くもなんともありません。
まるで神のような偉大なヒトラーの独裁政治の方が、もっとずっとワクワクできます。
譲歩や妥協を繰り返す周辺諸国との協調外交より、自分勝手な生存権確保のための侵略の方が夢を見れるでしょう。
冷静に考えればそんな馬鹿な!としか言いようがない、ユダヤ人への最終的解決策も一部の人にとってはユートピアの実現に思えたのでしょう。
政治においては、ひたすら退屈でつまらない現実主義に徹するのが一番良いのかもしれません。
夢を見させてくれる政治家や宗教家などは危険度マックスなのです。
ナチズムもマルクス主義も人種主義も個人崇拝も、夢をみさせてくれる悪魔の誘惑です。感情でついていくと、最終的には破滅しちゃいます。
歴史を教訓にして、つまらないなあと退屈しつつ、国会中継なんかを眺めましょう。
ナチス支配下におけるドイツの言語空間を考察
★★★★★
ナチス現象を「言語」を通して分析する。本書における「言語」は記号論的な意味に拡張されているので、映像や夢までが扱われている。ヒトラーの演説、ナチスのプロパガンダや儀式、レニ・リーフェンシュタールの映画、民衆のジョークなどは当然分析対象になるだろうが、ユニークなのは、この体制に生きた人が見た夢まで「深層の言語」として照明が当てられている点である。最終章のナチ協力者、抵抗者、ユダヤ人、一般民衆、そしてヒトラーに唯一面と向かって口論した牧師が見た「悪夢」の分析が著者がもっとも力を入れた部分だと思われる。この方法は、例えば現在ナチス体制に酷似する北朝鮮に生きる人々の「本音」を探り出すことにも適用できるかもしれない。またブッシュ政権のプロパガンダに躍らせらる米国人や、どちらかというと弛緩している日本社会に生きる我々の見る夢さえ「深層の言語」とみなせば、本書の方法は、かなり広い視座を持つことになる。