本書の登場人物は善人も悪人も皆人間の姿かたちをしていてわかりやすい。さらにトールキン自身の古英語に対する深い造詣と熱心なキリスト教信仰に裏打ちされた「ミドル・アース(中つ国)」の緻密な描写により、物語はいっそうの現実味を帯びている(本書とよく並び称される、友人C.S.ルイスの『The Chronicles of Narnia』(邦題『ナルニア国物語』)について、トールキンは内容自体はおもしろいが緻密な描写が足りないと批判している)。
今日まで出版されたペーパーバックの実に10分の1が、トールキンの何らかの影響を受けた作品だといわれている。「ファンタジー文学」、それはホビットを生き生きと描くことでトールキンが築きあげた世界なのだ。だが仮にそういったジャンルが存在しなかったとしても、その結果ロバート・ジョーダンの『The Path of Daggers』が世に出ていなかったとしても、指輪をめぐるこのトールキンの壮大な叙事詩は間違いなく後世まで語り継がれたことだろう。