でもいつものフロスト警部のこと、一貫した捜査方針などこれっぽっちもない。ただわめいて、走り回って、勘を頼りに強引な捜査を続けるのみ。しかしこいつが犯人だと確信したのもつかの間、強力なアリバイが見つかって、また一からやり直し。だがここでくじけないのがフロストのいいところ。ただし一緒に振り回されるギルモアはたまったものじゃない。奥さんには愛想をつかされ、かぐわしきアフター・シェイブ・ローションは同僚からバカにされ、事件を解決したと思いきや、手柄はほかの刑事のものとなる。上司に恵まれないとひどいことになるという、まさに典型。
ところが妙なことに、てんやわんやの大騒動もいつしか犯人が捕まってめでたく終了。とても普通では考えられない解決を見るのだから、やっぱりフロスト警部は天才なのか。いや、単に運がよかっただけというのが、真実だろう。『クリスマスのフロスト』(原題『Frost at Christmas』)、 『フロスト日和』(原題『A Touch of Frost』)に続いてのこの作品、大いに楽しんだ。まだ未訳の作品が2つある。早く読みたいものだ。それにしても大手柄は訳者の方。罵詈雑言、エッチ満載のセリフを、実に見事に訳している。ぜひご尊顔を拝したい。(小林章夫)