「あの人ですよ。あの人の事をお調べですね?」
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本書の著者である和多田進氏から、以前、直接こんな話を聞いた事が有る。−−平沢死刑囚についての調査中、和多田氏は、画家であった平沢死刑囚が描いた絵の一枚が、或る飲食店に飾られて居ると言ふ情報を得た。そこで、和多田氏は、その飲食店を何も言はずに訪れ、食事をした。その絵を自分の目で見る為にである。すると、平沢死刑囚の作品であるその絵は、情報通り、確かにその店に在った。和多田氏は、客の振りをしてその絵の存在を確認し、食事を終えた。そして、和多田氏は、店を出ようとして、その絵の前で、その飲食店の従業員に、何も知らない顔をして、こう尋ねた。「いい絵ですね。どなたが描いた絵ですか?」。すると、和多田氏にそう尋ねられたその従業員は、和多田氏にこう答えたと言ふ。「あの人ですよ。」「?」「あの人の事をお調べですね?」その従業員は、和多田氏が来店した目的を、何故か、見抜いて居たのである。和多田氏は、ぞーっとして、その店を後にしたと言ふ。−−平沢死刑囚が、帝銀事件の犯人でなかった事は、余りにも明らかである。そして、この事件の真実を追及する者に、何者かが無言の圧力を加え続けて来た事の理由を、私たちは考えなければならない。
(西岡昌紀・内科医)