全編を貫いて、どこかあやふやな不確かな浮遊感ともいうべきものが漂っている。それは語り手である思春期の少年に拠るところが大きいが、他の登場人物にしてもどこか現実味を欠いた存在として感じられる。日常を描いているようにみえて、その実、束縛あるいは監視するもののいなくなった子ども達だけの世界という、一種の夢物語めいたユートピアが舞台なので、お伽話のような危機感のない世界が構築されているのだ。
読み手としては、そこが肩のこらない感じでスラスラと読めてしまう。思春期の屈折した心理描写がうまく、自分の過去とだぶり、懐かしい思いをした。
ラストで、この現実味を欠いた姉弟は結ばれるのだが、そこには近親相姦という罪の意識や、うしろめたさはなく、あまりにもさらっと描かれている。
マキューアンらしさがあるようでないような、曖昧な位置づけの作品である。