ロンドンに住む有能な神経外科医、Henry Perowne の土曜日が描かれる。弁護士の妻、詩人として花開きつつある娘、ミュージシャンの息子。老詩人の義父、介護ホームに暮らす母。小説は土曜日のできごとを現在時制で、折にふれHenryの心に浮かぶ過去のことがらを過去時制で語っている。
空前のイラク戦争反対デモはHenryも加わっているのではなく、あくまで背景としてある。(Henry自身はイラク戦争を支持し、フセインを倒すことが優先だと娘と論争する場面がある) そしてテロへの恐怖、混迷の世界の状況が個々の人間の生活にぬきさしならない不安や脅威を与えているという思想がこの小説の根本にある。
土曜日の1日にHenryが遭遇したできごと、触れあった人々、自身の中の葛藤が淡々と印象的に語られ、後半は一段と緊迫した場面へと展開する。同時に全編を通して深い人間への愛が感じられる。
この小説はMcEwanの他の作品と同様、あるいはそれ以上に、語彙もコンセプトも私には難しかった。しかしなんとか読み通した結果、特にその結末の部分には深い余韻が残った。