素直に感情移入できない
★★★★☆
グリーンの代表作ということですが、読後の感想は正直微妙です。
人妻と不倫していた作家が、彼女の心変わり後もあきらめきれず、探偵を雇って彼女の新たな恋人が誰なのかを探るという話ですが、読み進むにつれ、人間の愛情と神の愛という、宗教的な話になっていってしまいます。
言ってしまえば、作家は神に嫉妬していたという結末なのですが、「自分の愛はあなたの愛に勝つ」といった感じで、彼は最後まで神にケンカを売り続けます。
キリスト教徒でない私にとっては、この心理はいまひとつ腑に落ちない感じです。
決して話がつまらないのではないのですが、登場人物に感情移入できないというのは、読んでいて少々辛いものがありました。
英文自体はそう難度は高くないのですが、宗教関係の用語とか、ヒロインの夫の勤務先である役所のしくみとか、いまいちよく知らないので、こんな感じかな、と推測しながら読みました。
もう少し時間を置いて再読すれば、持ち味がじっくり味わえる小説なのではないかと思いました。
深く重い主題と簡潔で美しい文章
★★★★★
神の愛と信仰と、主人公のMaurice Bendrixが友人Henry Milesの妻のSarahとする不倫が主題です。この本は辛い恋愛を体験したすぐ後に読みました。ですので、MauriceとSarahの気持ちが痛いほど心に染みました。
Graham Greeneは大人になってから、自分の意志で、聖公会からカトリックに改宗した人です。カトリックの聖人のダミアン神父、この方はハンセン病の施設に派遣され、自身もその病になりましたが、プロテスタント側から「彼はもともと女性関係に甘いところがあり、病気に感染したのはそれが原因である」とする批判があり、Greeneはそれに対して、少し記憶が曖昧ですが、「もしもそうだとしても、そこにこそ神の栄光がある」と反論していたと思います。
品行方正な人たちと神の愛ではなく、世間では蔑まれる不倫をする男女と神の愛という、一見矛盾するようでありながら、深く重い主題を扱っています。親鸞聖人の「言わんや悪人をや」に通じるところがあるのではないでしょうか。神の考えは人間の理解を超えた深いところにあると思うからです。
Greeneの文章表現が簡潔で美しいことも強く印象に残っています。これを翻訳で再現するのは不可能だと思います。ぜひ原著を読まれることをお勧めします。
理不尽な、大人の愛
★★★★★
映画から興味を持ち、原作を読みました。
やはり映画では良く分からなかった部分に関する理解が深まりました。
読む前は、宗教的な背景等に関する知識がないと理解できないかもしれないと思っていたのですが、(実際その通りかもしれないのですが、)逆に宗教をよく知らないために、狂気的ともいえるほど信仰に傾倒していくサラに主人公ベンドリクスが感じる理不尽さやもどかしさが理解できたのではないかと思います。特にサラの葬儀が終わってからラストまでは、かなり号泣でした。
サラの夫ヘンリーの行動も、人間の弱さを露呈しているように感じる。サラの死後ベンドリクスに頼って生きる彼の姿は哀れです。しかし、彼の立場で他に誰を頼ればいいのか?独りで生きるよりは、ベンドリクスに依存する方が楽なのか?もし自分だったら、独りでも凛として生きる道を選びたい、今はそう思いますが・・
悲しく、難しい話ですが、独特の美しさがあることも事実。重く暗いロンドンの空気にピッタリです。5点献上。
ことの終わりは大変
★★★★★
この小説は「the end of the affair」というものにかかるエネルギーの大きさを描いている。サラとモーリスの不倫は、はじまったときすでに頂点に達し、「終わりへの意志」ともいうべき何かに支配されていたかのようだ。サラに奇跡をすっぽりと信じさせてしまったものは、モーリスを愛していても夫とは離婚しないという彼女の意志であり矛盾であったに違いない。モーリスを諦めたサラの心は死に、まもなく肉体的な死ももたらす。彼女の死から遡っていくモーリスがみた彼女の愛と信仰は・・・
グリーンの真髄
★★★★★
グリーンの代表作。『情事の終わり』『ことの終わり』という邦題で2度映画化されました。
誰かへの深い愛情が,神への愛へと変わっていくプロセスが情感たっぷりに描かれています。映画ではこの辺が上手に描かれていなかったような。
グリーンというと『第三の男』が日本ではよく挙げられますが,悪・神への愛・神の愛を描き出そうとしたグリーンにおいては,本書こそ代表作にふさわしいと思います。