映画「マトリックス」の原案にも多大な影響を与えたといわれており、実際、映画の中でもこの本自体が出現する(主人公が切り抜かれた本の中にディスクを隠しているが、その本が英語版のSimulacra & Simulationのハードカバーバージョンである)。
まあ、ボードリヤール自身は自分の考えが曲解されていると不満らしいが、10章の「クローン物語」には少なくともマトリックスで描かれている世界との直接的つながりを見出すことが出来る。
もちろん、ボードリヤールのいうハイパーリアルな世界とは、コンピュータテクノロジーによって介在された「仮想現実」(このような言い方自体がすでに問題なのだろうけど)だけを意味しているのではなく、むしろ、さまざまな商品やメディアが作り出すイメージに取り囲まれた我々の現実そのもののことを指しているのだが。
内容の構成は非常に複雑である。 核心にたどり着いているようで、実はその周りをぐるぐる回っているような気にさせられる。 深い理解を求めるならば、当然のごとく何度も精読することが求められるだろう。