同楽団のエグゼクティブ・ディレクターを務めた経験をもつ著者は、しかし、オルフェウスは決して「リーダー不在」ではなく、どんな組織よりもリーダーが多いのだという。そこには、個々のメンバーが音楽の解釈やプログラムづくりに自発的にかかわり、リーダーシップとその責任を共有することで、個々の才能や意欲、献身、創造性などを引き出すプロセスがあると論じる。
本書は、その「オルフェウス・プロセス」を、権限委譲、製品と品質への自己責任、役割の明確化、コンセンサスの形成といった「8つの原則」から説き明かしたものである。各解説では、楽団メンバーの声を拾いつつ、原則がいかに実践され、どんな効果を生んでいるかを検証するほか、それを企業に当てはめる5段階の「掟」や「落とし穴」を提示している。JPモルガン、リッツ・カールトン・ホテル・カンパニー、サンディエゴ動物園、インテルなど多数の事例を読み解いたり、フレデリック・テイラー以来の経営管理理論の視点を盛り込んだり、膨らみのある内容が特徴的である。
組織の意思決定の遅さや無秩序などの問題をクリアするオルフェウスの工夫は、フラットな組織を目指す企業の良い見本になるだろう。(棚上 勉)