偉大な思想家は、不必要に難解なことばを使わない。どの国のどんな読者にも理解できる、平易なことばで明快に述べるものだな、と痛感した。この本は、ドラッカーの思想のエッセンスを知るために最適である。といっても、著書ではなく、インタビュー。しかも、最晩年のことば。ドラッカーの哲学、思想が短いことばに凝縮されている。
　米国のマネジメント書の質の高さには、いつも驚かされるのだが、ドラッカーの普遍的に通用する教えと影響力は群をぬいている。その経営思想のベイシックスが、この小冊に全部入っているといっても過言ではない。カリスマ的リーダーを称揚せず、「生まれつきのリーダー」など存在しない、と言い切る点に、行動主義の影響を感じてしまったが、おそらくドラッカー独自の考えだろう。
　特筆すべきは、日本の読者向けのメッセージが入っている点。日本の官僚制、年功序列、終身雇用、言葉の壁をふくみ、日本特有の諸問題について、鋭いひと言を発している。
　巻末に加えられたジャック・ビーティの解説は、ドラッカーをこれから読む読者も、ドラッカー・ファンにとっても、必読である。ドラッカーの思想をはぐくんだ特異なバックグラウンドと、「巨人」の人柄を偲ばせるエピソードは、編集者としてドラッカーとつきあったビーティならでは。ビーティはドラッカー解説書『マネジメントを発明した男ドラッカー』の著者でもある。ドラッカーの言葉をひきだしたインタビュアーにも拍手を送りたい。