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Collected Short Stories Volume 1 (Maugham Short Stories)

価格: ¥1,583
カテゴリ: ペーパーバック
ブランド: Vintage Classics
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矛盾といつも繰り返される喜劇とそしてアイロニー ★★★★☆
vintage版のvol.2です。字が大きくて読みやすい。これでとうとうこのシリーズの短編シリーズを全部読んでしまいました。不思議な人生の変転やどうしようもない運命や出自そして偏見(そう英国人の階級意識)を背負った様々な人々の人間模様が今回も繰り広げられます。このvol2では特に男女の間の不思議な関係を扱った作品が満載です。ユダヤ人である出自から逃れようとするある成り上がり貴族の家系の様々な群像の中で、世代を超えてその出自に復讐されることになるテーマを扱ったalien cornは、中欧の同種の作品とは、そのトーンがかなり違いますが、結論は陰鬱です。flotsam and jetsamは、英国の植民地の末端にうごめく人々が抱えた様々なやり場のない不満と鬱屈が、conrad風の情景の中で描かれます。この植民地を取り上げたテーマは、footprints in jungleやin a strange landにも共通するものです。virtueは植民地からの一時帰国中の青年が平凡な主婦の生活に引き起こした「悲劇」を淡々と扱っています。social senseは不思議な愛の形とその終末に直面する悲劇の中で、そのアイロニーを淡々と受け止める女性のdignityを見事に描いています。Janeは中年の未亡人の20才以上年下の青年との第二の結婚を扱ったコメディですが、その終わり方は意外ながらも常識的な作品です。treasureやvergerはどれも英国の社会と階級関係の文脈でしか起こりえない出来事の顛末をユーモラスに扱った作品ですがどちらもその結末はハッピーエンドとなっており、モームらしからぬ作品です。それとの対比で、human elementは、イギリスの社会関係が引き起こす倒錯した情景が最後に明らかにされます。creative impulseは珍しく男性から女性への「復讐」(といっても陰鬱なものではありませんが)が扱われますが、その終わりは皮肉ながらも幸せなものです。
版と文字の大きさについて ★★★★☆
vol.1は,マレーシアや植民地に特化した作品が多数を占めるvol.4とは異なります。しかし含まれる作品群をいくつかのカテゴリーに分けることが可能です。ハワイを含む南太平洋を舞台とした作品、スペインとくにセヴィリアを舞台とした作品、英国人を主人公とはしながらも南仏との密接な関わりを持つ作品、定番のボルネオ物、そしてどの範疇にも収まらない不思議な作品。こういったところでしょうか?どれもかなり戦間期の後半に書かれた作品が多いようです。中には第二次大戦後の作品としか思えない作品もいくつかあるようです。さすがに駄作としか思えない作品もありますが、どれも平均以上の作品です。さてどれをお勧めしましょうか?隠れユーラシアンの不安定な心理状態を取り上げたのはyellow streakです。男女間の移ろいやすい感情へのある女性の英国人らしい対処を描いたのはthe promiseです。平凡な始まりからドラマティックで意外な展開へと移り最後は虚飾に満ちた英国人の虚勢で終わるのは、before the partyです。the unconqueredは著者には珍しい独仏のしこりを描いた不思議な作品です。lion's kinは英国人の階級への執着を描きながらもその終わりは同情的なトーンで描かれています。全編に共通するのは人間というもののむなしさとそのむなしさにこそ人間の本質が宿るという真実の描写です。追記:このレヴューはvintage版gのvol.1に対してですが、私はvol.1とvol.4はペンギン版で読みました。表紙はボナールの絵です。ペンギン版は、vol.4は字が大きい版ですが、vol.1は字が非常に小さくて困りました。現在読んでいるvol.2はvintage版で読んでいます。これは字が大きくて非常に読みやすいので、字の大きさが気になる方は、最初からvintage版を選んだほうがよいと思われます。
作者の目は限りなく覚めています。 ★★★★★
私の年代で、作者のぶつ切りにされた残骸を英文和訳の練習問題として格闘した経験のない人っているのでしょうか?前後の文脈から切り離された2つ3つの段落を訳す作業の無味乾燥さとその2−3の段落の余りの平坦さと面白みのなさは、私にとっては、トラウマとなって残り、その後彼の作品を手に取ることはありませんでした。ところが最近ある女性評論家がある新聞で、この短編集の中に含まれているlotus eaterを取り上げているのを見て、とうとう読むことになりました。読後感は、新鮮な驚きであるとまた同時に十分な納得感でした。そう、日本の高校生にモームのぶつ切りなんかを読ませても理解できるはずがないのです。ここに描かれるのは、あのなんともいえない英国人と故郷喪失者の世界なのです。この特殊な対象とその舞台である植民地や辺境についてイメージがわかない日本人にとっては簡単に誤読に陥ってしまう作品でもあります。そしてこのvol4のかなりの作品は、大英帝国華やかなころ(戦間期)のイギリス人の植民地(シンガポールを含むマラヤが中心)が舞台となっています。そして植民地に巣くう英国人の間の様々な日常の関係こそが直接的な題材なのです。そこでは現地人は匿名性をまとい、風景として背景に退いています。そして、本国での階級関係をひきづった英国人たちが、異郷の風景の中で繰り広げるいつもながら変わることのない人間関係の型が描かれています。モーム自身序文の中で今はもう存在しない生活を描いているといっているほどです。しかしながらこの特殊な題材からモームが引き出すのは英国という特殊性を超えた人間一般の悲しさと悲劇性です。そしてそれを語る作者の手際のよさは見事なものでありますが、トーンと筆致は限りなくドライですね。
神戸のカフェで往時を偲びつつ・・・ ★★★★★
 サマセット・モームは僕の好きな作家の一人ですが、これはモームのショート・ストーリーを集めた本で、午後のカフェで読むには最高ですね。
 この中に神戸の塩屋〜垂水界隈を舞台にした『A Friend in Need』という作品があります。明治時代に活躍した英国の商人たちを題材にした話で、酒とギャンブルで身を持ち崩してしまった男がビジネスをやり直したいからと友人のところに金の無心にやってきます。
 友人は塩屋の浜から沖に浮かぶ灯標(平磯灯標のこと)まで泳いで行き、浜に戻ってきたら金を貸すことを約束します。男は灯標までの距離がさほどではないことに安心して泳ぎ出すのですが、明石海峡の強潮に流されて溺れ死んでしまうという話です。
 僕が子供の頃、舞子〜垂水〜塩屋に至る海は毎日の遊び場でした。早い潮の流れる海峡は決して安全ではありませんが、僕らは板切れや丸太を抱いて沖に出てわざと潮に流されていく、「河童の潮流れ」という遊びをよくやったものです。
 モームは神戸と英国の間を行き来する商人たちから、塩屋での彼らの暮らしや、沖を流れる明石海峡を流れる早くて複雑な潮の話を聞きながら、この作品のアイデアを思いついたのかも知れません。