学界的見解
★★★★★
第1章 まず母語習得について考える 〔白畑〕
第2章 学習者の習得順序と外国語の学習法について考える 〔須田〕
第3章 学習者の誤りについて考える 〔白畑〕
第4章 学習者要因について考える 〔白畑/須田〕
第5章 臨界期仮説について考える 〔白畑〕
第6章 脳科学からのアプローチについて考える 〔須田〕
第7章 簡単に信じない力と研究の面白さ 〔若林〕
編著者の基本属性は不明。早大(英文学科)卒業(83年,ってことは1960年生まれ?)。どういうわけだか,青学で修士号取得(85年)。んでもって,アリゾナ大学でM.A.(88年)。さらに,阪大で博士号。カッコいい。本書出版時点で静岡大学(教育学部)勤務(教授)。白井『外国語学習に成功する人,しない人』,『外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か』と白畑とは別人。もうひとりの著者=若林は,中央大学(文学部)勤務(教授)。Ph.D(ケンブリッジ大学)。カッコいい。須田は富山県立大学(工学部)勤務(准教授)。須田の経歴は面白い。M.A.(エセックス大学)というのはじつにカッコいいが,群馬県立女子大学でも修士号を取っている。男性(らしき名前)なのに,なぜ女子大で修士号が取れるのだろうか? 不思議だ。
とくに若林と須田は,白井恭弘や若林が編集した日本人学習者による英語習得の著作に連名で論文を寄稿している。白畑を含めて三人とも,日本第二言語習得学会の要職を果たしている。とくに編著者などは前会長なので,本書は学界的見解といってよい。もちろんだからと言って,反論の余地がないわけではないはずだ。取り敢えず,若林の章は1つしかないし,なおかつ若林の担当章は内容も著作という感じではない。なんだか大学新入生向け的内容で,本書のような著作なら,通常,序章に当たるような内容。
全23の「俗説」を科学的見地から叩いていく論旨は清々しい。「『第二言語学習は幼少期から始めないと遅すぎる』のか?」のような英会話学校が謳い文句にするような愚説から,「『聞くだけで英語はできるようになる』のか?」とか「『『英語耳』や『日本語耳』という区別はある』のか?」とか,いかにも胡散臭そうなヤツを含みながら,「『多読で英語力は伸びる』のか?」,「『教師が誤りを正すと効果がある』のか?」や「『やる気があれば上級学習者になれる』のか?」などのような,聡明なる本拙評読者でも疑問を感じる俗説を科学的見地から再検討している。
本書は,第6章「脳科学からのアプローチについて考える」があることからも判るとおり,基本スタンスが“常識を疑え”だ。脳のことなんて,理系読者を除けば殆どわからないだろう。また周囲が異口同音に常識を口にしても,それは未確認の限り信じるなというわけだ。それはメディアに関してもそうだ。その例として,NHKの「クローズアップ現代」(1999年)に文句をつけている(152頁)。
白井『外国語学習に成功する人,しない人』『外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か』のうちのどちらかと本書を併読すると,英語学習の知見を拡充できると思う。
(1238字)
レビュー高評価だが、学問的にはもはや古い
★★★☆☆
「本物の研究者」が「客観的視点」で「原書」から得た情報に基づき「俗説」を検証する本。だが、「俗説」が何を示すかあいまいであり、論理のすり替えや自己撞着に満ちている。実証的に示されない説を俗説とするならば、本書の結論は「俗説まみれ」。俗説批判からはじまり俗説に終わっている。たとえば、パタンプラクティスの項を見れば、パタンプラクティスは「オウム返しに近い繰り返し学習」であるとし、日本においては「効果があるという結果は得られていない」とあるが、パタンプラクティスの実践に関する研究データは示されていない。パタンプラクティスによっては「構造や形態素を本当に習得したとは言えない」とあるが、「本当の習得」がどのようなものか、示されていない。本書が検討すべき問題は、たとえばパタンプラクティスはアメリカ軍で「外国語に堪能な人材を育てることに成功した」という俗説を検証することである。ただし、この程度のレベルの低さをいちいち目くじらたてていては日本の大学(ヨーロッパ全土より多数あるという)の「大学人」とはつきあえない。象牙の塔の座学の上から目線をパロディとして読むならば価値のある本。
第二言語と外国語
★★★☆☆
第二言語とある。日本における英語は、果たして第二言語だろうか。
英語を母国語(第一言語)として持たない英語圏に住む人々にとって、英語は第二言語である。
そのため、第二言語としての英語は、学ばねばならない必須事項である。
学習環境としては、教室の外でも学習内容のフィードバックを受けることができ、
インプット、アウトプットともに母国語習得時と同程度の量になる。
一方日本はどうだろうか。明らかに環境が異なる。
まず、日本は英語を使えないからといって社会生活が営めない訳ではない。
これはモチベーションの低下につながる。
また、インプット、アウトプットともに第二言語の環境と比べ桁外れに少ない。
第二言語の学習法と同じでは、どうしてもインプット、アウトプットの量が足りないのは自明のこと。
以上のことから、日本における英語は第二言語ではなく、外国語であろう。
本書はこの事実を踏まえた上で書かれたものなのだろうか。そこが不明確なため、星は少なめにさせてもらった。
ただ、未だ第一言語習得と同じ方法で英語を学べばいい、などと無邪気なことを言う人間もいるなかで、
このような本が出ることは大変好ましいと思う。
巷に溢れる英語参考書で勉強を始める前に
★★★★★
本屋に行けば、英語学習書が所狭しと並べられている。その中には、
「英語耳」や「右脳学習」、「多読」などのキーワードが飛び交い、
どの参考書を信じて英語学習を始めればいいのか迷ってしまう。
本書は、第二言語習得研究(SLA)の入門書として、誰にでも気楽に
読めるように、こういった巷にあふれている英語学習に関する様々な
「噂」を、現在のSLA研究の成果を紹介しながら検証していく形式
になっている。具体的には、「英語耳、日本語耳という区別はあるのか」、
「英語学習は右脳で、日本語学習は左脳で行われるのか」、「多読で
英語力は上がるのか」等、全部で23のテーマの検証を行っている。
筆者たちも述べているように、現在学術分野で分かっている範囲のみを
書き、分からないところは分からないとはっきりと線引きをしている。
非常に平易に書かれているので、SLA研究の入門書として、また色々な
英語学習参考書を手に取る前に読んでみる価値がある本。
結局、何が有効かまだ分からないんだ
★★☆☆☆
とても分かりやすく読みやすい本で、一般向けによくここまでかみ砕いて書いてくれたと感じる本です。
しかしながら、結局、何が外国語習得に効果的かは、科学的にはまだ分からないことの方が多いということのようです。
長年英語教育に携わり、日々、英語と格闘している私としては、非常に残念な読後感でした。
外国語学習の「非常識」については、実際の外国語教育の場でもおおむねその化けの皮がはがされており、効果がないことが認知されるとともに、淘汰されつつあると思います。
一方、経験則的に「どうやら、これは効果がありそうだ」ということがほぼ確実と思われる方法も、それなりに明らかになりつつあると感じます。
著者の言うように、「実際の外国語習得を科学的研究の対象にするのは難しい」「外国語習得研究と外国語学習研究は違う」というのは理解できます。
しかし、もう少し「理論」と「実践」の間をつなぎ、橋渡しするような研究が出てきてくれることを望みます。