この作品はあの力作「Kane&Abel」のAbelの娘Fの生涯を描いた、いわば続編である。K&Aの読者は、Fの少女時代、将来どのような仕事をするか、誰と結婚するかを知っている。従って長編を読み始める負担感が著しく小さい。始めから腰を落ち着けて読める。著者もそれを計算してか序盤からぐいぐいとばして行く。
Fが人間形成されていく少女時代の前編から始まり、終始非常に濃密な物語がテンポ良く展開される。
しかし何と言っても当作品の本領は、Fの政治家としての活躍ぶりにある。前・中編の生い立ちの記で秀外恵中なFにすっかり魅了された読者は、まさに彼女の支持者となり、Fと政界の艱難辛苦を共にするかのような興奮をたっぷり味わう。アーチャーならではの優しく上品な英文が、冷酷なはずのこの手の物語を、実に温かく楽しいものにしている。