村の住民たちはひとり、またひとりとヴィアンヌの手作り菓子の魅力に屈していく。…ジョアンヌ・ハリスはこの3作目の小説に、人々の秘密や悩み、愛や欲望を、きわめて軽いタッチで織り込んでいる。登場するのはたとえば、悲しげで上品なギヨームとその死にかけた飼い犬。虐待され、手癖の悪いジョセフィーヌ・ミュスカ。それからヴィアンヌに「ショーウィンドーに飾ってある魔女つきのショウガ入りクッキーを食べていいわよ」と言われたとたん、「超サイコー!」と大騒ぎする子どもたち。それから80代でまだまだ元気いっぱいのアルマンド。彼女にはアヌクの「空想の」ウサギ、パントゥフルの姿が見えるし、ヴィアンヌの正体も見抜いてしまう。しかし、村人のなかには、アルマンドの気取った娘やジョセフィーヌの暴力夫など、レーノーの側につく者も。だからヴィアンヌがイースターの日は「チョコレート祭り」で幕開け!と発表したとたん、「教会」対「チョコレート」、「善」対「悪」、「愛」対「教義」の全面戦争が始まるのだ。
素晴らしく優雅な魔法でコーティングされた、「最高においしい」『Chocolat』は、ヘルマン・ヘッセの短編「Augustus」をも彷彿させる。「中味はクリームみたいにソフトなのが一番」ということを、教え諭すのでなく最高の説得力で証明してくれる、そんな小説だ。