昭和史の核心をつく一冊
★★★★★
素人にも大変わかりやすく昭和史、特に「天皇の役割」について説明してくれる。
おもに天皇についていうと、「国政大権をもつ天皇と統帥大権をもつ大元帥」という驚くべき天皇の二つの職責について明らかにし、それは明治憲法に基づいていたためであること、二つの役割を負わされた昭和天皇が、それぞれの職責においてどのような行動をとってきたかについて例をあげて説明する。まことに分かりやすい。
国政については、大臣が輔弼し責任を負うという明治憲法の定めにより、天皇はNOと言わないかわりに責任を逃れるという仕組みになっていたこと、統帥権については国政とは違い、天皇が兵を親率するものとされていたから、2.26事件の際に天皇が見せた態度は「大元帥」としてのものであったこと。
この「天皇の二つの役割」を理解することにより、親も教師も教えてくれなかった長年の疑問が解けていく糸口を発見することができた。
もうひとつは、以前から各メディアや識者が指摘しているように、天皇の態度には、2.26事件で受けた自らや家族への身体的恐怖を伴うトラウマが関係していたこと。
これらを理解しないことには、先の戦争についての多くの「なぜ」は全く進まなくなってしまうし、これらを抜きに「戦争責任」という言葉は言えないのである。
作者はシロウト探偵と謙遜しているが、本書は昭和史に興味をもつ若い人たちに必読してほしい大変優れた一冊である。
最後に、作者が第一七話で危惧する精神生活の「機軸なくして」について。
もちろん明治の伊藤博文が危ぶんだ「西洋のキリスト教に当たるものが日本には無い」の意味の「機軸」であるが、戦後の日本でこれに当たるものは間違いなく「お金」になったのだった。…それでは西洋のマフィアと大して変わらない価値観なのかもしれないが。