この本に収められた原型の作品を正典と比較すると短編はエッセンスだけあってかなり書き込みが浅い。
また、枚数の都合かかなり端折っている部分も多くこの辺が正史が新たなる創作意欲を湧かせたのでしょう
圧巻は短編から中編→長編と肉付け作業を2回行った2作品
「渦の中の女」と「迷路荘の怪人」でしょう。
それぞれ長編は「白と黒」「迷路荘の惨劇」と改題されていますが
比較すれば正史が如何に苦心しているかがわかります
収録された作品群は社会派の勃興期に発表されたもので、正直にいって出来はよくない。特に「蔵の中」や「靨」など横正の最高傑作と比べれば格段に見劣りすることは否定できず、仮にすばらしい探偵小説を読もうと本書を紐解くならば失望すること必死である。だがすでに「毒の矢」や『迷路荘の惨劇』などを読んだファンならば、骨格が剥き出しとなった本書を読むことで、横正の作法といったものを感得しうるかもしれない。しかしそれ以上に、一編でも多く横正作品を読みたいという飢餓を癒すのが実は本書の一番の効能であろう。かくいう私も本書と『金田一耕助の新冒険』で大いに溜飲をさげた一人なのである。