外圧によって生じたこのあっけらかんとした軽薄さは、この国の文明開化に驚くべきスピードをもたらしたが、一面で多くのゆがみも生みだした。開化期以降に来日した欧米人に対する神話などは、その格好の一例だろう。
フランク・ロイド・ライトは、アメリカ人建築家。関東大震災にも耐えたという帝国ホテルの建築デザインによって、ル・コルビュジエなどと並ぶ偉人伝中の人物だそうだ。
本書は、「マヤ文明」、「幾何学的装飾」、「有機的建築」といった華麗な惹句に彩られる一方のライト神話を、史実と資料に基づいて冷静に相対化しようとした作品。帝国ホテル設計に携わっていた当時の建築家が、実は自国にあって不遇な時期を過ごしており、そのために日本での神話の素材に使われることになった自伝には、自国と日本向けのデモンストレーション的な粉飾があるという件など、ミステリー小説を読むようで、大変おもしろい。
著者は建築論を専攻し、ライトの業績を知りすぎるほど知っている人である。従って本書の主眼も、ライト本人への批判というよりは、片務的な神話の解体という、より大きなテーマの方に向けられている。専門分野の本でありながら、本書に人間ドラマとしての魅力が生じたのはそのせいだろう。(今野哲男)