前作が良かっただけに・・・
★★☆☆☆
前作「The Pillars of the Earth」がなかなかの力作で楽しめたので、期待して読んだのだが、かなりがっかりした。一言でいえば、なんだか「水戸黄門」とか「暴れん坊将軍」なんかを見ているような気になった。
前作同様、登場人物はたくさんいるが、話の筋は割と単純だ。主人公は、裕福な羊毛商の娘カリスにほぼ限定されると言っていいだろう。それ以外の多数の登場人物は、最初のうちこそ前作のように複雑な物語構成を意図していたようだが、そのうちネタが尽きてきてしまったのだろうか。いずれも人物描写が浅く、それぞれの人間像がいまいちよく伝わってこない。
前作では、人間描写はもっと複雑で面白かった。悪が必ずしも絶対的な悪なわけではなく、悪いことをしながら一方で良いことをしてみたり、敵だと思っていた相手から、思わぬ助けを得たり、人生経験を積むうちに敵の立場を理解するようになって、和解したりと、実に人間臭い、魅力あふれる登場人物たちが物語を作り上げていた。
一転この作品では、悪役は最初から最後まで悪役で、善良な人はずっと善良で、いろんな出来事が次々起こるけど、必ず最後には正義が勝つという、徹底したワンパターンと勧善懲悪主義が、ある意味わかりやすいといえばわかりやすい。だが、そんな調子の小ネタを延々と読まされると、何か事件が起こるたびに、およその展開が見当ついてしまい、予想が裏切られたことは、結局一度もなかった。
つまり、多少のディテールの差はあれ、最初から結末が分かっている時代劇を見ているような、大いなるマンネリズムにどっぷりと漬かってしまう。
また、前作では大聖堂の建築手法について、作者自身もかなり研究したと見えて、建築の手法やその技術革新などの描写も、非常に魅力的だった。描写も丁寧で、建築に携わる人達の息づかいが感じられるかと思うほどだった。一方、今回も主人公カリスの恋人で、後に結婚することになるマーティンは、やはり建築家だ。だが、前作のトムやジャックのような、建築家としての苦悩や情熱は、ほとんど描かれていない。建築手法に関する描写も、かなり大雑把だ。
1200ページに及ぶ大作ではあったが、前作が傑作だっただけに少し残念だ。とても同じ著者の作品とは思えない。
読みやすい、読み続けられる
★★★★☆
The Pillars of the Earth(以下PE)の続編です。ただし登場人物は共通しないので、PEを読んでいなくとも、本作を楽しめると思います。PEではPhillipがヒーローですが、時代が下った本作ではキリスト教の権威が低まり、ヒーローは商人であるMerthinです。貴族であるAlienaの代わりに商人の娘Carisがヒロインです。
PEは、主人公の一人Jackの描き方・扱い方に納得のいかないものを感じましたが、本作のMerthinには特に違和感を覚えませんでした。ただし、Carisは行動に一貫性がなさ過ぎなのではないでしょうか。確かに一貫性を持たせたら女性でなくなるかもしれませんが。。。ただし、フェミニスト的な発想を中世の世界で持とうとしたらどうなるか、という思考実験として面白い。
1200ページ超の大作ですが、飽きることなく読み進められます。退屈してくると刺激的なシーンになりますので。
英語は平易かと思います。学校文法では扱われない構文(例えばway構文や結果構文など)も出てきますが、文脈から自然に理解できると思います。
British people who lived through a time of Black Death are vividly written with integrity and sensitivity.
★★★★★
This is a sequel to his former bestseller "The pillars of the earth" which was set in a medieval town of Kingsbridge that still exists in southwest England. This new fiction, a voluminous work of over a thousand pages, is again set in Kingsbridge, but time has passed over 150 years, so although some former characters appear occasionally as legends, you can enjoy the story almost fully whether or not you have experienced the former novel. The story unfolds rapidly and the speed never slackens until the end. One of the main events is Black Death that eliminated a third or more of the England's population. At that time, there was no knowledge of bacteria and some people rumored the rays from the patients' eyes were responsible for the epidemic, which was intriguing to me. In this novel you can also feel the common sense of that time, for example, monks and military men were heavily admired while women and peasants were looked down on. The story is supported by the historical facts such as the King Edward III's edict about the laborer’s payment, the confinement of the king's mother, and the victories of Cresy that is the early part of the Hundred Years' War, which give stateliness to this fiction.
壮大なイングランド版歴史小説
★★★★★
舞台は14世紀のイングランド,英仏が百年戦争を戦い,十字軍の船が運んだ黒死病(ペスト)がヨーロッパに蔓延しわすか3,4年でヨーロッパの人口を半減させ,まだ魔女裁判が行われていた時代。ジャンヌ・ダルクが火刑に処せられたのもこの時代でした。
そんな激動の時代を貴族,騎士,神父,尼僧,商人,職人,農民(農奴)といった各階層の人々はどう戦い,生きたのか。様々な階層の目を通して描いた迫力のあるドラマで読むのが楽しみになります。
華やかな騎士道を追求し,戦争と権力争いを繰り広げる貴族,騎士。経済力と政治力をつけ,修道院の諮問機関にすぎなかったギルドを町の議決機関にしてしまったメンバーの商人,職人。そして黒死病によって働き手が減少した人手不足を逆手に自分たちに有利な「契約」を領主と結び農奴の立場から自由農民の地位を得ていく農民たち。
それぞれの立場で懸命に生きる姿を読むうちに,描かれた中世社会に入り込んでしまったような錯覚さえ覚えます。歴史の専門書からは伝わらない人間ドラマが描かれています。
原書で読むと1,200ページの長編です。中世が舞台なので時々なじみのない単語が出てきますが,先を読み進めていけば辞書なしでも理解できます。
日本語訳は「大聖堂―果てしなき世界」という題名で,(上中下刊がソフトバンク文庫から出版されています。
実はこの“World without End” はその前に同じ作家が書いた“The Pillars of the Earth”(英文983 ページ)という小説の続編,というよりその登場人物たちの子孫たちの物語にあたります。こちらは12世紀当時のイングランドを“World without End”と同様に各階層から見る形式で描かれています。これも迫力と歴史考証に富んだ本ですが,残念ながら日本語訳は出版されていないようです。
壮大な人間模様
★★★★☆
漸くすべて読み終えました。全てが収まるところに収まって、メデタシめでたしと言うところです。悪い奴は全部死んだり、遠くに追いやられたりしてキングスブリッジの町に再び平和が訪れました。メインの登場人物たちは自分たちの夢をかなえ、その子供たちは自分のやりたい道(夢)を突き進み始めました。
お話はいろいろな要素が含まれていますが―――例えば、王家の陰謀、教会の腐敗、ペスト、階級差別あるいは男女差別―――ちょっと盛り込みすぎと言う感が。そのひとつずつで一冊の本が書けそうです。つまり、具だくさんで味が薄い感じ。
前作はハラハラドキドキで全編読み通しましたが今回は一人ひとりの生活がしっとりと語られているようでドキドキ感はあまりないです。でもこの1200ページ余の長さを途中で諦めることなく読み進めていけたのは、作者のストーリーテーリングの巧みさのお蔭なのでしょう。最後の方はもう「終わらないでくれ」と、このまま永久に話が続いてくれたらいいのにと。登場人物の一生をともに過ごし見とどけたいとの思いが。心地良い(いろいろ悲惨なことが起こるので心地良いと言ってはダメか)時間の流れにどっぷり浸かった数週間でした。