最後には、聖地メッカで、世界の人々との協調にめざめますが、
あいにく糾弾に倒れてしまいました。
過去から現在へ続くアメリカの内紛を目の当たりにしたようです。
ただ、彼があまりにも不幸な人生だったため、もう少し、
キング牧師のように恵まれていたら、価値観も変わっていただろうなと思います。
ハーリイがマルコムにこの企画を持ちかけたとき、マルコムがinterpreterでなく忠実なwriterがほしいと言ったそうですが、ハーリイは徒にマルコムを偶像化することなくつとめて客観的に人間マルコムに迫ることに成功しているように思います。最後のほうにハーリイ自身が書いた長いエピローグがついていますが、そこではマルコムのハーリイ初稿へのコメントなど、この本のいわゆる「メイキング」が描かれていて実はこちらもバイオグラフィーの内容そのものと同じくらい面白い。
ネイション・オブ・イスラムで覚醒し、メッカ巡礼を経て真のイスラムに近づいていくマルコムの人生を歴史的にどう位置づけなのか、ハーリイは(この本がマルコム暗殺直後にまとめられたこともあるのでしょうけれど)その時代に大きなインパクトを与えた事実の表現にとどめ、「評価」は後世に委ねています。
その後世(あるいはマルコム自身の時代)の常識に照らして、ネイション時代のマルコムの言辞は限りなく極論に近い正論とでも言えばいいのでしょうか。マルコムの生きた時代は、本人の言葉にもあるように時としてextremistを必要とした時代でした。60sがマーティン・ルーサーとマルコムの2人の「偉大な」黒人指導者を生み出したのは歴史の必然だったのか。
宗教・信条・信念とその自由とは何なんだろうか。その善悪はどう判断すればよいのか。マルコムの存在はわれわれの人生を「無関心」に安住させてはくれません。
いい本です!!!