ソシュール研究の大家にして日本の碩学、故・丸山圭三郎氏によるオートパロディ。小冊子であるが、これはソシュール入門の書ではない（丸山氏によるソシュール研究の詳細は『ソシュールの思想』などを参照）。ソシュールについても簡単に紹介されているが、既に丸山氏によって乗り越えられた理論が展開されている。アナグラム研究の断章は実に面白い。
　また、「現代思想の基底に迫る知的冒険」とはよく言ったもので、丸山氏の汎時的視点から捉えられた、硬直した西欧合理主義の思考の限界に対する徹底した批判は痛快であり、素晴らしいというほかない。本書は「＜知る＞ことは＜創る＞喜びをもたらす」という帰結で終わっているが、この一冊の小冊子そのものがまさにそれを体現して見せているといえる。
　分かりやすい文体ゆえに読みやすいが、専門用語の数はハンパではないので、心して読まれたし。この書の次は「言葉・狂気・エロス」を読むと面白いだろう。