宗教の本か?と敬遠する必要なし。
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パキスタン人のChangezがアメリカのプリンストン大学を卒業し一流企業で職を得て、アメリカ女性と恋愛するも、911を境に彼に関わるあらゆるものが(内的にも外的にも)崩れていって・・・、というストーリーです。主人公がアメリカ人旅行者に語っている、という設定=独白スタイルの文章で、その設定も内容も妙にリアリティがあります。イスラム原理主義を連想させるタイトルですが、宗教色はほとんど無く、私は読んでる途中、「これはイスラム教は関係なくて、アメリカのeconomic fundamentalismとでも言ったようなもの(?)に対する嫌悪のことを言っているのでは?」と思ったくらいです。そして、最終的な結末は読者にゆだねているかのようなラストシーン。夢中で読みました。
Changezという名前が"change"を含意しており、また、彼が恋に落ちるも、死んだ元恋人のことを忘れずにいる女性がErica(=America)、そして彼女が想い続ける死んだ男性の名がChris(=Christ)という解釈があるというのも非常に興味深いです。
ただこの小説は、使っている単語が結構難しく、英検1級の語彙問題に出てくるような単語がばんばん出てくるので、英語学習中の身にはなかなか荷が重い本・・・ではありました、が、実におもしろかったです。社会問題が関わる本とはいえ、内容は実に普遍的なもので、読者を選ばないと思います。「911が起った時、僕は嬉しく思ってしまったんだ」なんて描写も出てくる本なのに、この本がアメリカでもかなり評判が良く、さらに複数の言語に翻訳されているというのがそのあたりを物語っていると思います。読んでよかったです。
世界にはこんな小説もあるんだ、という新鮮な驚き。
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「すみません、何かお困りですか? いえ、怪しいものじゃないんです。私はアメリカに住んでいたことがあって、アメリカが大好きなんですよ」。パキスタン第二の都市ラホールにあるカフェで、パキスタン人青年がアメリカ人旅行者に声をかけるという設定。全編が青年の一方的な独白という形で進みます。18歳でアメリカに渡り、有名大学を出て、大手コンサルティング会社に勤め、上司に認められ、高給に恵まれてパキスタンにいる家族に仕送りし、白人女性に恋をする。貧しい国から来たものが夢見るようなアメリカン・ドリームを実現したのですが…。タイトルを直訳すれば「気乗りしない原理主義者」。なぜ彼は気乗りしないのか? なぜ原理主義に傾倒するようになったのか? 次第に明らかにされていきます。
最初は語り口の面白さからコメディだと思いましたが、徐々に青年の独白は真剣度を増していきます。青年の経歴と著者の経歴がかぶることから、著者自身の体験が主人公に反映されていると考えてよさそうです。恐らく著者は、9.11以降、急速に内向的になったアメリカという国家を糾弾したかったのでしょう。コメディ、ミステリー、恋愛、政治など、様々な要素が詰まった斬新な小説でした。