新保守主義への批判
★★★★☆
NY Timesのコラムニストでノーベル経済学賞を受賞したPaul Krugman氏による政策批評と提言。米国の政治経済史を独自の視点で解説。人種問題、南北問題など根深い恥部を明らかにしてくれます。Bush政権批判で知られる著者らしく、基本的に新保守主義政策に対する批判ですが、日本人的には結構納得できます。貧富の格差拡大の要因としての社会制度や規範の役割。確かに日本では米国CEOの報酬はありえません。一部富裕層により設立された保守主義政策シンクタンク(American Enterprise Institute, Cato Institute, Heritage Foundation, Manhattan Institute, Hudson Institute)の果たす政治的役割。公共教育の機能不全と不動産バブルの関係。より良い学区への移住と住宅価格上昇。親の職業、収入、教育水準と子供の教育水準の相関関係から見る機会の不平等。最後にいつくか政策的提言もされます。健康保険制度については、地域毎の統一料金制度、低所得者への補助、強制保険、民間・公営保険の競争を提言。貧富の格差是正については、税の所得再配分機能の強化と最低賃金引き上げ、労働組合の活性化による低所得者層の底上げを提言。但し、本人も指摘しているように1930年から50年代までのブルーカラー労働者の賃金上昇の大きな理由に、限定的な外国との競争と1924年の厳格な移民法があり、このような人民主義的運動が保護主義的運動に繋がらない対策も併せてコメントして欲しいと思いました、影響力のある方ですから。Obama民主党政権が始まり、流れが変わる方向にはありますが、Krugman氏の理想通りに進むのか、これからも課題が山積みです。