家をつくる蜘蛛にも似て……
★★★★★
◆「アベンハカーン・エル・ボハリー、おのれの迷宮に死す」
ナイル河流域のとある部族の王アベルハカーン・エル・ボハリーが、
ペントリースに住みついた。
彼は一人の黒人の奴隷と、一頭のライオンを連れ、たった一つの
部屋と、長い廊下から成る迷宮のような邸で暮らすことになる。
ある日、彼はその一つしかない部屋の中で、従弟のサイドの手にかかって殺されてしまう。
四半世紀後、詩人のダンレイヴンと数学者のアンウィンが
荒廃したアベルハカーンの邸を訪れ、事件について語り合う……。
ミステリ仕立ての小品。
文中でも〈そのジャンルの古典的技法〉であるとか〈読者が守ることを
要求している確かな《約束ごと》〉といった表現が出てきていますが、
トリックとしては、ありふれたもの。
しかし、一切無駄のない、洗練された構成は実にスマートで、完成度は非常に高いです。
冒頭で、コーランの一節「家をつくる蜘蛛にも似て……」を掲げているのもおしゃれ。