命あるものたちのせつない思いが、美しく圧倒的な迫力で語られる
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きつねの恩返しの民話は全国にあるらしいが、この再話には恩返しの部分がなく、「いとしげな若い女」が雨の夜についてきた、で始まる。そこがかえって、たとえけものであろうと、命あるものの情愛の深さを感じさせる。
とりわけ素晴らしいのは、満開の椿に見惚れて正体を現してしまう場面。二ページにわたる椿の絵は圧巻。また、ぼうややとっつぁの前で、きつねの姿にもどってみせるかかの行動からは、潔いあきらめが伝わってきて、胸に痛いほど。
摂津の話が有名なようだが、この本では「なじょうも」「…… すけ」など、東北の言葉に近いものが使われており、いにしえの日本人の言葉を聞くように、美しく心に響いてくる。日本人の自然との深い関係に改めて感動させられた。
日本のむかしむかし
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子供達(児童室の)に読み聞かせしていますが、昔話だと真剣に、音も立てずに見てくれます。恩返しのために人になって姿を現すといえば「つるのおんがえし」だったりするけれど、この本からはきつねのお母さんがどれほど子どもを愛していたかがよくわかります。最後に不思議なお米を植えて、残された二人が幸せに暮らせたってことはほっとするし、愛情の深さを感じます。
また絵にも圧倒されました。きっと遠目がきくでしょうね。言葉も私の田舎のなまりがあって懐かしいです。母親の愛情は深く心にしみるものですね。
季節の中で、
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好きになった特別の理由なんかは何もない。ただ、偶然のように無性に好きになって、・・・ ただ、それを受け入れて貰えた。そんなことがあっただけのこと。別れなくてはいけない特別の理由なんかも何もない。ただ、世の中にそんなどう仕様も無いことがあっただけのこと。静かで、慎ましく、深い諦観。黙って、ただそんな風に理解しているだけだから、景色の中に、ふたりの想いがほとばしっている。切なさと、そして、優しさに満ち溢れている。