CDは2枚で、時間数にして半分以上は単語とその日本語訳である。これは繰り返して聞くにはまったく不向きなので、私はハードディスク式携帯プレーヤーに全体をコピーして、単語部分を全部削除して使っている。
最大の欠点は、間違いが多すぎることである。スペイン語の基礎を一通り終えていて、しかも、本に書いてあることでも辞書で確かめないと気が済まない人にしかすすめられない。平均して2ページに1つくらい、へんてこな訳やミスプリがある。単語のアクセント記号が抜けているのはしょっちゅうで、たとえば oleo (油) の o のアクセント記号が、62ページに3箇所、64ページに3箇所、それに索引も、全部抜けている。blusa が bulsa に(p.57)、Inglaterra が Inglattera に (p.58) なっている。helado の イタリア語 (gelato) を gerrato にしている (p.69)。Eligio' (3人称)を「私は選んだ」と訳している(p.87)。Recuerdo poco (ほとんど覚えていない) を、「少しだけ覚えている」と訳している (p.86)。 Podri'a preguntarle si sabe manejarlo bien? (あなたがそれをうまく使えるかどうか、お尋ねしていいでしょうか) を「あなたに質問してもいいでしょうか? あなたはそれをうまく使えますものね」と訳している (p.93)。podri'a (直接法可能形) を「不完了過去形」(線過去のこと) と説明している。編集者の良心を疑うが、私はそれなりに楽しんでCDを聞いている。
例文の一部を紹介するならば:
「失業率が20%を超えていたのはそれほど昔のことではありません」
「初めに商業を自由化し、国営企業の多くを民営化しなければなりませんでした」
「現在、国家は立憲君主制によって統治されています」
このように新聞やテレビニュースを理解する上で不可欠な単語が網羅されているので、この本を徹底して学習するとかなりスペイン語力がつくと思います。
一方で、この本の文法説明はかなり簡略化されていることを指摘しておきたいと思います。別の学習書で接続法過去や過去未来形といった動詞の活用や、関係代名詞や再帰動詞などの文法項目について一通り修めていなければ、この本の例文を解釈するのはムリでしょう。ですから本書は初学者が最初に手にするべき本というよりは、ボキャブラリー・ビルディングを目指す中級者向けの教材と言えます。
付属のCDは2枚組みで、吹き込み者は中南米出身者ではなくスペイン人です。掲載されている例文のすべてが吹き込んであるわけではありません。各課の冒頭に掲げられた例文を吹き込んでいるだけで、そうした例文にはめ込まれている重要単語を個々に取り出して別の例文を組み立てている頁が続いているのですが、こちらの例文はCDに入っていません。そういう意味では、本書に掲載されている例文のおよそ半分がCDで聞けると考えたほうが良いと思います。
例文の内容が高度な上に吹き込みのスピードも決して余裕のある速さではありませんから、入門者には難しいでしょう。