しかし、本書のいいところはイスラームへの偏見を解こうとするばかりに政治化された「過激なイスラームは少数の例外である」という逃げ方をしないところである。
また著者のリズン氏はジャーナリスト出身だけに、女性とイスラームの問題、ジハード概念など興味を惹くテーマに言及しつつ、イスラーム主義を理解する上で欠かすことのできないシャリーア(イスラーム法)やタウヒード(神の唯一性)といった概念についてもバランスのよい議論を展開している。
難点と言えば、少々欲張りすぎなところ。初学者には難しい議論もある。またあくまでイスラームの解説書なので、現代について知りたい読者は大塚和夫氏の『イスラーム主義とは何か』(岩波新書)などと併せて読まれることをお勧めする。つまり「1冊では分からない」。
世界の人口の5分の1がイスラム教徒だそうですが、それだけの宗教を一冊の本にまとめるということは大変な作業だと思います。だからだと思うのですが、この本の中にはたくさんの情報が詰め込まれています。本書の中に出てくる専門用語のアラビア語はなかなか覚えることができず、既出の語彙であっても、意味を思い出せないことが多々ありました。そんな時には、巻末の用語集が大いに役立ちました。ただ、残念な点は、用語集の語彙数が少なかったことと、本文中に必要以上に人物名が載っているように感じられたところでした。
残念な点はあるものの、イスラムのことを知るための第一歩としては、とても役に立ったと思います。本文中に、46のコラムが掲載されているのですが、これはいわゆるコラムの他に、本文と関連のあるクルアーンの抜粋や他の本からの引用があり、読み進めるのにパワーが必要な本文(読書力(?)には個人差があるので、この本を読みにくいと思わない方もいると思いますが、私には少し肩の凝る本でした。まあ、しかし、この本が取り扱っているテーマを考えれば、柔らかい本になるはずはありませんが。)からの逃亡や、息抜きにちょうど良かったです。
最後に、この本の目次を挙げておきます。
1 イスラーム、ムスリム、イスラーム主義
2 クルアーンと預言者
3 神の唯一性
4 シャリーアとその影響
5 女性と家族
6 二つのジハード
補遺 イスラームの五柱
イスラームの未来はどうなるか―解説に代えて(山内昌之)