ただ、この「今」という時代であっても、- SPICEを使い始めたけれどバイポーラトランジスタ回路のDCバイアスが判らない - と言う学生さんにお目にかかり不思議な困惑を感じる事があります。
なまじ安易に日本語のテキストで大切な学習ポイントを通過してしまうより、むしろこの程度のわかり易い英語のテキストで、じっくり回路を学ぶほうが良いのかも知れません。
かつて、「トランジスタ部品」を利用した回路設計についての名著、Pulse Digital Switching Waveforms という書物があり、一方で「集積回路上の回路設計」についての入門的な名著として この本があったのですが、前者(真空管からバイポーラTrへの変遷の過程で高い評価があった著作)は時代の流れを反映してか、絶版になって既に10数年が経過しています。
共に、友人に貸して行方不明になってしまい、口惜しい思い出になっている本でした。
手に入る本書は現在、1993年出版の改訂3版となっており、比較的新しい(?)MOSなどについてのトピックも補足され、SPICEパラメータについての簡単な解説が与えられていますが、やはり基礎としてはバイポーラを主体にした記述になっています。
読者が既にラプラス変換・伝達関数についての予備知識をもっていれば、8章以後に提示される古典的制御・・ナイキスト安定判別や極配置についての記述類・・は簡単に理解できるでしょう。
この本の「売り」は色々ありますが、面白いのはオペアンプ(741!)の詳細な解析が紹介されている所かもしれません。
また、ノートンアンプ(第4章:電流源回路のカテゴリに包括)や、ギルバート乗算回路(第10章)についてこれ以上に詳細な解説をしている書物は他に見当たりませんし、古典PLLについては560Bを例に挙げて相当詳細に解説してあります。
ノイズについての第11章は、現在でも半導体回路全般についての貴重なリファレンスになっているのではないでしょうか。
易しい書き方をしてある本ですが、入門書ではなく基礎書です。 唯一、物足りなく感じるのは、アナログ集積回路と外部のL、C素子とのかかわりに関する記述部分が節約されている点ですが、アナログ集積回路についての書物であれば当然のことかもしれません。
学生時代のうちに、是非読んでおきたい本の中の1つだと強く確信し推薦します。