金融アセスメント法の可能性
★★★★☆
NPOバンクの様々な事例に関しては個々のHPでも知ることができるので珍しくはない。
むしろこの書で重要なのは金融アセスメント法の可能性を記載した部分だ。地域再投資法(CRA)という名前の方がいいと思うが、アメリカで成功した事例を中小起業主体で法制化しようとして失敗したことが紹介されている(参考:誰のための金融再生か―不良債権処理の非常識 (ちくま新書))。ただし、これは何度でもチャレンジすべきものであり、失敗した過去のものと片付けられないと思う(国に頼ってはいられないというのがこの本の主旨だから、CRAの法制化に成功したら本書の主旨がズレてしまうのだろうが)。
自己資本比率とともに金融機関に地域への貢献を義務づける地域再投資法は、「改革」による貸し渋り貸し剥がしに対抗しようとするものであり、NPO金融だけではカバーできない部分をカバーするものとして貴重だ。
中小企業のネットワークだけに限らない、超党派による新たな取り組みが望まれる。
あくまで全体像を把握するために
★★★☆☆
一般的に融資や投資は、利益活動として行われるため融資・投資先事業の採算性や利益性が最も重視される。それ以外の公共性がきわめて高い事業に関しては、国や地方自治体により公共事業として行われる。しかし、それ以外にも世の中にとって貢献する意義のある事業活動は行われているが、十分な資金がないために継続できない事業がある。
金融NPOとは、まさに利益重視ではなく社会への貢献を重視した金融(融資・投資)を目指す非営利の組織のことである。欧米では、かなり事業規模の大きなNPOバンクが存在するが、日本では1980年代の立ち上がりから現在にいたるまで、限定的かつ小規模なものに留まっている。
遠因として、日本ではNPO(NGOも)が政府の下請けになっている構図が多く、対等な関係ではなくあくまで監督官庁によるコントロールの対象になってしまっている。政府の諮問機関において、ようやく金融NPO(NPOバンク)を見据えた議論が出てきてはいるが、欧米に比べてまだまだ遅れていると言わざるを得ない。(日本では金融NPOは消費者金融と同等の扱い)
本書は、そのような日本国内と諸外国における金融NPOの歴史・背景と現状、今後の展望が述べられている。岩波新書らしく全体的な概観はできる。詳細はさらに他著の参照が必要だろう。
全体的にサーベイ的要素が強く、新規に金融NPOを立ち上げたい人たちや、職員やボランティアとしてJoinしたい人たちへの手引きではない。
読むだけで、元気になりました
★★★★★
日本の多くの地域で、自分たちのお金を地域に活かすための試みがいくつも進行していることを知らされました。日本人も捨てたもんじゃないと、読んでいて元気にさせられました。世のなかを批判するだけでなく、自分たちでいいものを作り出そうという人々と実際に出会った気分にもなりました。書き手の生き生きとした描写が生きていますね。最近の新書では一押しです。
新聞記事以下
★☆☆☆☆
多くの金融NPOを紹介していますが、ただ聞いたことをそのまま書いただけで、客観的な裏付けを欠いた、いいかげんな取材です。そのため、おかしな話が平気で書いてあります。たとえば、イギリスの金融NPOのくだりで、ビジネスプランは重視しないと言っておきながら、では何を重視しているのかとえば、その内容は明らかにビジネスプランです。裏付け以前の問題です。この著者は、本当に金融や経営を知っているのでしょうか?たしかに、金融NPOが重要であることは認めますが、手放しで礼賛できるようなものではありませんし、この本に書いてあることと実態とはあまりにかい離しています。
まずはNPOの意味から
★★★★★
営利を目的としない、自分たちが必要と考える文化や産業のために、お金を集めて融通しようとする金融NPO。その日本での実態から国外の例まで。
NPOは特定の概念ではなく、経済の主流である営利の立場から見たときに、非営利の傍流的経済活動を一括して、経済の仕組みに連接するための枠組みだと理解した。集団自体が利益を求めないからと言って、その活動は必ずしも善意に基づいたものにならないし、他者から見て意味を成しているかどうかを保障するものでもない。
その意味のうえで、金融を目的としたNPOという観点からの説明を試みたのが本書。
NPOとは何なのか、本書を通じてわずかながら理解できたような気がする。