これからの遠大な日々を生き抜くにあたって
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本書を読みながら しきりと最近良く新聞でも読む「BOP=Bottom Of Pyramid」ビジネスとの比較を考えた。
BOPは最近のはやりである。インドや東南アジアの貧困層向けにユニリーバやダノン等のグローバル企業が 細かい商売を積み重ねて結果として大きな収益を上げているという話だ。基本的にはマイクロファイナンスの嚆矢である グラミン銀行が バングラディッシュで対象とした層と重なるものがある。
違いがあるとしたら 貧困層への見方である。グラミン銀行は そこに「援助すべき貧困」を見たのに対し グローバル企業は「巨大な新しい市場」を見ているという点だ。勿論 グローバル企業側にも「貧困撲滅」という志はあると思うが やはり収益第一で来ていることも確かだろう。
但し そんなグローバル企業を安易に批判すべきではないことは 本書を通じて再度思った次第だ。慈善事業の持続可能な活動のモチベーションとして人の善意に頼るほど 人類は「人間が出来ていない」からだ。
将来的には 慈善が人間の本能になる日が来るかもしれない。いや 既に 有る程度慈善のDNAが組み込まれて来ている気もする。しかし それが大きな動きとなるような「進化」にはまだ時間は掛かるだろう。その これからの遠大なる日々の間 人間自体が 持続可能である為にも 「貧困解決型事業のビジネスモデル」の創出が求められている。本書は マイクロファイナンスという一例をあげて そのような新しいビジネスモデルの勃興を主張しているのではないか。それが僕が読みとった内容である。
この国ではGDPの水準が上昇しているにもかかわらず、「幸福感」は戦後一貫して横ばいを続けてきた。本書で紹介されているアダムスミスの一節「自分たちの剰余は人に施すことによって幸せになれる」という考え方に新鮮な感動を覚えた。
★★★★☆
あの、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスにより、有名になったマイクロクレジットについて、貧困の進むこの国での啓蒙のために書かれた本である。
当初は、発展途上国にこそ見合う仕組みだと思われていたが、ヨーロッパの諸国での導入も進み、我が国でも小規模ながら行っている機関もあると初めて知らされた。
本書ではいろいろな方式でのマイクロファイナンスを紹介しているが、著者は民でも官でもない第三の方式を提言している。
そういう意味で、本書でも触れられているが今や唯一の官の金融機関となった日本政策金融公庫の可能性には期待したい。
この国ではGDPの水準が上昇しているにもかかわらず、「幸福感」は戦後一貫して横ばいを続けてきた。本書で紹介されているアダムスミスの一節「自分たちの剰余は人に施すことによって幸せになれる」という考え方に新鮮な感動を覚えた。
東大卒の大蔵官僚であった著者の経歴からすれば、このような考え方をぜひこの国に広めていってほしいし、併せてこの国の貧困の解消に果たす役割には期待したい。
人を見てお金を貸すことで経済弱者の自立を助けることができます
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日本において格差は拡大しつつあり、貧困は確実に増大しつつある。この状態を放置し続ければ、社会情勢は悪化し、社会の安定化のために大きな財政負担による対策を実行する必要が生じてしまう。それを未然に防ぐためには対策を早期に実施するしかないが、政府の施策でそれを全て実施するには財政負担が大きすぎる。また、対策にはリスクが伴うため、市場原理で動く民間組織がそれを実施することを期待することはできない。
民も官もできない領域を担うことができるのが、マイクロファイナンスである。途上国だけで無く、先進国においても、貧困にあえぐ人びとにマイクロファイナンスは融資を行い、貧困からの脱出を助けている。その活動は利益至上主義ではないが、持続的な活動ができるだけの利益を上げており、その原資は寄付や補助ではなく、預金や出資である。マイクロファイナンスは銀行のように担保をとらず、利子も消費者金融よりはるかに低く設定しているが、人とビジネスモデルを入念に審査し、フォローを綿密に行うことにより、貸し倒れによるリスクを低減しており、貸し倒れ率は非常に低い。
みんながお金第一で行動するのではなく、良いことのために使われるよう預金すること、出資すること、また、そうする金融機関を評価し、支援すること、こうした行為を多くの人たちがしていくこと、そうした仕組みを作っていくことにより、みんなが安心して暮らせる社会、みんながつながってくらしていける社会を新しくつくりあげていくことができる。こうした魅力的なビジョンが、経済学の知見と現実に対処している実践の両方をきちんと踏まえながら展開されている素晴らしい本。不安に満ちた社会に生きる私たちに未来を切り開く方向を提示している、オススメ。
「善意」をいかに持続させるか―ビジネスとしての社会保障
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本書は、経済学を専門とし
現在は北海道大学教授である著者が、
マイクロファイナンスについて解説する著作です
マイクロファイナンス(以下「MF」)とは、
「貧困に苦しむ人々に提供する、少額無担保融資などの、金融サービス」のことです。
このMF、従来日本では、開発援助の文脈で論じられることが多かったのですが、
筆者は、国内の貧困対策として活用することを主張します。
そして、ノーベル平和賞受賞で知られるグラミン銀行をはじめとする各国での成功例や
すでに国内にある低所得層向けの融資制度を紹介したうえで
日本におけるMFの本格的な導入と
それを支える国家や社会の役割や理念を説明。
さらに、MFを運営する人材を育成するための機関の設立を提唱します
低所得層向けという点で類似する消費者金融との相違や
E・P・トンプソンなどを参照した抽象的な議論も興味深かったのですが
やはり一番興味深かったのは
NPOバンクや市民投資信託、公益信託型など細かく分類し提示される
日本型マイクロファイナンスのビジネスモデルです。
一読すると無味乾燥な記述ですが、
こうした細かい記述を読むことによって、
漠然と理解しがちなマイクロファイナンスについて、
具体的イメージをもつことができました
抽象論に終始することも、些細な論点に拘泥することもなく
MFについて平易かつ網羅的に論じた本書
貧困などの社会問題や公共哲学に興味を持っている方はもちろん
一人でも多くの方におすすめしたい著作です
先進国におけるマイクロファイナンス
★★★★☆
マイクロファイナンスの諸外国における事例と、日本の生協などの取り組み紹介。先進国での具体的な内容や、岩手などの事例紹介は興味深いが、全般的に広く浅くで、掘り下げが足りない。終盤も、日米の社会起業事情の違いに触れるものの、「回転ドアの必要性」のみへの言及にとどまる。
まあ入門本としては有用だろう。興味のある人は東洋経済本を読めということか。