著者はLTCMが駆使した債権アービトラージ、レポを使ったスワップ、オプション、VARによるリスク管理の具体的な説明をするだけでなく、もっと大きな金融史という文脈や、取引所の歴史、金融工学の基礎となる物理・統計学の歴史的背景なども描いているので、デリバティブ発展の歴史を大きな視点で見ることもできます。
同じようにLTCMを題材にした「天才たちの誤算-ドキュメント LTCM破綻」と比較すると、「天才たちの誤算」はLTCM内部やそれに関わる金融機関やFRBの人間模様を描いたルポタージュであるのに対して、こちらはLTCMを通して描く金融史というか、デリバティブの歴史ドラマといった感じがします。やはり、抽象的なデリバティブを具体的なストーリーを通して学ぶと、よりよく理解できます。
文系の人間としては、こういった工学・サイエンスの歴史書は本当にありがたいです。この本を読んでいたら、分野は違うのですが、サイモン・シンの「フェルマーの最終定理」を思い出しました。
この本はほんとにLTCMの業務内容についてはよーく分かる。
ただ、LTCMは一般の人には「破綻」で知られており、
LTCMの内部を詳しく説明した本書はその肝心の破綻の経緯が弱い。
副題の「怪物ヘッジファンドの栄光と挫折」のうち、
栄光8割、挫折2割くらいの割合である。
もし、挫折を詳しく知りたい方は
「天才たちの誤算-ドキュメント LTCM破綻」
を読まれることを強くお勧めする。
こっちは、栄光2割、挫折8割と言う感じで、
2冊読めばちょうどいいと思われます。