堕落した果てにパナマに飛ばされたイギリスの諜報部員アンディ（ピアース・ブロスナン）は、その地で政府要人も利用している紳士服店の仕立て屋ハリー（ジェフリー・ラッシュ）に接近し、情報を得ようとする。しかし気弱なハリーが、要人たちから聞いた話に尾ひれをつけてアンディにしゃべったことから、いつしか世界は一触即発の危機へと発展し……。
 『未来惑星ザルドス』『エクソシスト2』などで知られる異才ジョン・ブアマン監督が、スパイ小説の権威ジョン・ル・カレの原作・脚色を得て繰り広げる、何とも大胆不敵なポリティカル・サスペンス映画の快作。緊迫感とブラック・ユーモアのセンスが両立しながら保たれていき、それらがクライマックスで一気に融合して得られるカタルシスは、これぞ史上最大のブラック・ジョークといった卓抜したものであり、そこにはもはや笑いを通り越して戦慄すら覚えるほど。007とは正反対の腐りきったスパイを、P・ブロスナンが、まるでセルフ・パロディのごとく楽しそうに演じているのも良い。膨大な予算やアクションなど用いずとも、知恵とセンスで映画はここまで面白くできるという鑑のような必見作であり、ジョン・ブアマン俄然健在を広く映画ファンに知らしめる大傑作である。（的田也寸志）