著者の戦闘体験を基にした、リアルな思想的文学です
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ハイデガーやカール・シュミット等の友人であり、そして20世紀前半のドイツ思想・文学界を代表する一人、エルンスト・ユンガー。
この人、プール・ル・メリットというドイツの非常に権威ある勲章を、軍事上と文学上の功績から二度授与されたただ一人の人間であり、ドイツ本国のみならず、思想的に近いフランス等ヨーロッパでは、著名な政治家達からも含め、もの凄く尊敬されていた人です。
そんなユンガーが、第一次世界大戦における将校としての戦闘体験を基に書いた初期の代表作こそ、この『鋼鉄の嵐の中で』です。
しかしながら、日本ではあまりウケない内容のためか、昔出版された日本語訳をそうとう運良く入手しない限りは読めませんし、私も含めてドイツ語が苦手な方には困ってしまう現状です・・・。
その様な状況の中、この英語版は、一筋の光となってくれていると言えるでしょう。この本は晦渋な文章等とは全く感じませんでしたし、おそらくある程度の英語力があれば、けっこう簡単に読めるものだと思います。
内容はやはり、いかにも「戦争の英雄」が書いた本ですね。ユンガーはニーチェの「超人」の具現化である等と言われますし、内容は英雄崇拝的・ロマン主義的でもあるんですが、しかし最後の方までしっかりと読めば解りますが、民主主義的で平和主義的でもあるんですよね。
もちろん、今となってはあの時代の「ベタな思想」に過ぎませんが、これは理屈をこね回しているだけの学者ではなく、「本物の戦士」が書いたことに意味があるのだと思います。何よりも、戦争における英雄性と悲劇性が生々しい程に伝わってくるという点と、そして、偏った視点では描かれていないという点で、非常に良い作品だと思います。