過ぎ来し青春…「江戸情緒」を秘めた東京
★★★★★
何でもないようだが、このタイトルうまい。決まっている。東京で江戸情緒を残す21ヶ所をフォトと軽妙なエッセイで構成している。根っからの江戸っ子どころではない、著者は四国高知から上京、新聞配達しながら東京の都立工業高校を卒業、社会人になった。本書に掲載されたそれぞれの場所にはいずれも深い思い出がある。それらを総括する感慨深い次の一節に共感できるであろうか。
ひとは誰でもが、「記憶」という名のアルバムを持っている。
そのアルバムに貼りつけられているのは、画像のみにあらず。
風景の後ろから聞こえていた音。
その場に漂っていた香り。
かじかんだ手をこすったときの、凍え。
肩を寄せ合って交わした、ささやき。
例えば、新旧が同居した町だった「湯島」…そこは坂の町である。そして、男女の忍び逢い、逢瀬の似合う町でもある…無縁坂。切通坂。三組坂。妻恋坂。どの坂も秘め事を隠し持っているような味わい深い名前だ。坂の名は古く、江戸時代中期の古地図には、すでに無縁坂も切通坂もその名が記されている。…登り坂の頂上になにがあるかは、下からは見えない。ゆえに坂を登る者は、わくわくと胸をらときめかせる。
地名…そこに思い出のある者は、この簡明で含蓄のある文章によって、それぞれの秘められた「記憶」の世界に引き込まれていくのであろう。
過ぎ来し青春…「江戸情緒」を秘めた東京
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何でもないようだが、このタイトルうまい。決まっている。東京で江戸情緒を残す21ヶ所をフォトと軽妙なエッセイで構成している。根っからの江戸っ子どころではない、著者は四国高知から上京、新聞配達しながら東京の都立工業高校を卒業、社会人になった。本書に掲載されたそれぞれの場所にはいずれも深い思い出がある。それらを総括する感慨深い次の一節に共感できるであろうか。
ひとは誰でもが、「記憶」という名のアルバムを持っている。
そのアルバムに貼りつけられているのは、画像のみにあらず。
風景の後ろから聞こえていた音。
その場に漂っていた香り。
かじかんだ手をこすったときの、凍え。
肩を寄せ合って交わした、ささやき。
例えば、新旧が同居した町だった「湯島」…そこは坂の町である。そして、男女の忍び逢い、逢瀬の似合う町でもある…無縁坂。切通坂。三組坂。妻恋坂。どの坂も秘め事を隠し持っているような味わい深い名前だ。坂の名は古く、江戸時代中期の古地図には、すでに無縁坂も切通坂もその名が記されている。…登り坂の頂上になにがあるかは、下からは見えない。ゆえに坂を登る者は、わくわくと胸をらときめかせる。
地名…そこに思い出のある者は、この簡明で含蓄のある文章によって、それぞれの秘められた「記憶」の世界に引き込まれていくのであろう。