たとえば、金融界の「最高神」J・P・モルガンは、病弱な少年時代を送っている。重い鼻の病気にかかり、人に恐怖心を与える醜い顔になってしまう。彼がビジネスに興味を抱くのはその病弱さのためだった。アンドリュー・カーネギーは、一家で借金をしてスコットランドから渡米した移民である。「世界一の富」を築く歩みは、逆境からのスタートだった。
ロバート・ウッドラフは、コカ・コーラの社長に就任するなり幹線道路の屋外広告の看板を買いまくり、さらにペプシ・コーラと法廷闘争を繰り広げる。ブランドイメージ戦略を熟知した、天才的マーケティングの始まりである。ビジネス・スクールでアディダスの牙城を崩すビジネスプランを立てたフィル・ナイト(ナイキ)は、卒業してすぐ日本に飛び、ある靴メーカーと販売契約を交わす。まだ会社もつくらないうちの早業だった。マイクロソフトのビル・ゲイツは創業期、ソフトウェアを組み込まずに発売された小型コンピュータを見て、そのメーカーの社長に連絡を取り、まだ作ってもいないプログラムソフトの納品を承諾させる。「標準」づくりをビジネスにした、最初の強引なやり方であった。
ほかにも、ロックフェラー、フォード、ウォルト・ディズニー、アンドリュー・グローブ(インテル)など、アメリカンドリームの象徴的存在の生涯がまとめられている。ただ、1冊で25人を取り上げているため、内容が薄いと感じられる章があるのは残念である。
この25人を理解することは、アメリカ経済を成り立たせているものは何であり、それがどんな道筋で発展してきたかを理解するうえで役立つはずだと著者は説く。確かに、エンターテイメントとしてだけでなくアメリカ経済史としても楽しめる1冊だ。(棚上 勉)