感情的な描写が少なく、淡々と書かれているが、本書を読む限り、著者の幼少期の経験はあまりに壮絶である。4歳でしょう紅熱(溶連菌による感染症)を患い、5歳で父親が軍隊に召集、その数日後に起こった祖父の死…。また、ユダヤ人であることから激しい差別を経験し、ナチスによる迫害を恐れながら暮らした。
こうした緊迫感あふれる描写の一方で、数々の友人や教師との交流も描かれている。同級生たちからプフィ(太っているという意味)と呼ばれ、自分の容貌に若干のコンプレックスを感じながらも尽きることがなかった女性への興味、学問への飽くなき関心、ジャーナリスト志望だった彼がどうして化学に興味を持ったのかなど、偉大なる経営者、アンドリュー・グローブの知られざる横顔が実に詳細に描かれている。とりわけ、自らの積極的な努力により勝ち取った、新天地アメリカでの第2の人生は実に爽快で、読んでいて気持ちがいい。ビジネス書の趣はないが、充実した人生を得るためのヒントを与えてくれる1冊。(土井英司)