フレンチ・ダンス・ミュージックという言葉に新たな意味を吹きこむゴタン・プロジェクトのデビュー・アルバム『La Revancha Del Tango』。映画音楽作曲家のフィリップ・コーエン・ソラルとクリストフ・ミュレル、アルゼンチン人ギタリストのエデュアルド・マカロフの共同プロジェクトであるゴタン・プロジェクトの本分は、ヴォコーダーを駆使したシックなディスコ・ハウスよりも、アコーディオンを使ったタンゴにある。このパリジャン3人組のデビュー作は、大型クラブのダンス・フロアを賑わせることはなさそうだが、ユニークで魅惑的でフランス情緒満点だ。出来のいいごった煮的ダンス・ミュージックのようでもあり、胸躍るサウンドトラックのようでもある。強烈なブレイクビーツ、不気味なヴァイオリン、重要な役を占めるアコーディオンをうまくミックスさせることで一風変わった味が出ており、ソラルとミュレルのシネマティックな世界に少なからぬ新味をもたらすことになった。しっとりとした雰囲気をただよわせたトラックの数々は、パリのカルティエ・ラタンの夜がよく似合う官能的なサウンドトラックだ。
あこがれに満ちたメロディーを持つ「Queremos Paz」やジャジーな「Last Tango in Paris」はロマンティックそのもの。唯一クラブで実際にかけられそうな「Triptico」は、イキなラテン・リズムが上流階級の活気を思い起こさせる。しかし、もっとも心に残るのは、安っぽい路地裏の匂いがする「Epoca」と誇らしげな「Chunga's Revenge」だ。どちらも眠りに誘うようでありながら毒気たっぷりである。ダブ風のベースとキャバレー風の調子はずれなヴォーカルもゴタン・プロジェクトの魅力だが、何といっても聴く者の心を離さないのは情熱とドラマ性だ。タンゴほどこの2つを備えた音楽はない。(Dan Gennoe, Amazon.co.uk)