単行本を持っている人にもオススメ。イルカ漁の問題の理解が深まる
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存在は知っていたけれど、著者の作品はフィクション中心に読んでいたため読んでいなかった『イルカとぼくらの微妙な関係』。今回、改題し、文庫化されたのを機会に読んでみた。
元の本は1997年8月に出版されたため、ちょっと古いが、本文中のデータについては2010年のデータが併記されていたり、著者による「文庫版のための少し長いあとがき」が加えられているため、内容は古くない。むしろ、『The Cove』という近年公開された和歌山県太地町のイルカの追い込み漁を描いたドキュメント映画が話題になった今(2009年のアカデミー賞ドキュメンタリー映画賞受賞)、読むべき本だ。
特に、その映画を踏まえて書かれた「文庫版のための少し長いあとがき」は、なぜあの映画が世界的に話題になったのかを知るためのいい参考文献だと思う。あの映画が物議をかもした時、私自身は観ていないにも関わらず、単純な動物愛護、野生動物保護対日本の伝統的な漁、食習慣という図式でしか考えられなかったが、この本を読むと、そんな単純なものではないことに気付かされる。
本編に含まれる12編の文章でも、その点については、著者はところどころ触れていいるのだが、このあとがきは、きれいに整理されていて、問題の背景がよく理解できた。特に、この問題を整理した人間中心か非・人間中心かと自然・生態系全体の保全志向か個体志向か、という二軸のマトリクスで分析したところは非常に分かりやすい。マスメディアでもこういう整理がされていれば、もっと有益な議論ができただろうにと思う。
あとがきの話ばかりになってしまったが、映画『グラン・ブルー』以後、イルカに魅せられている自分にとっては、世界中に生きるイルカの仲間たちとの交流が描かれた本編も、とても読み応えなあるものだった。
著者は、イルカ好きにも関わらず、単純に野生イルカ保護を声高に主張するのではなく、科学ジャーナリストらしく、偏りのない目でイルカ漁の実態、それが日本の特定地域の伝統であるのか、生業としての漁の意味があるのかを、調査分析し、さらには、イルカの保護の問題点にも触れ、著者の立場を主張しているところに好感が持てる。
単行本を持っている人もこの文庫版をすすめたい。