アスベスト禍の史的真実に迫る力作
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2005年6月、兵庫県尼崎市にあったクボタ旧神崎工場跡地周辺で、アスベストしか原因がないとされる極めてまれな悪性腫瘍である中皮腫の患者と死亡者5名を確認、クボタが3名の患者に見舞金200万円を支払うという衝撃的な報道からはじまった、いわゆるクボタショックから4年。アスベスト問題が社会問題として認知され、アスベスト救済法もできて、ごく一般には、アスベスト問題は一定の解決をみたかのような印象を持たれているが、実は、そうではない。事実、クボタ公害被害者の数はその後増え続け、200名に達しようとしており、クボタ社内の被害者と合わせてすでに犠牲者は350名以上にもなっている。社会全体の被害者の数は累増を続けていて、かつての石綿大量消費の負の遺産は増大の一途だ。
一方、このアスベスト禍を招いた経緯については、政府や業界サイドから、つまり、情報を独占的に所有する側からの一定の「説明」が行われてきたが、「本当のところはどうなのか」というまとまった情報が整理されずに来ていた。本書は、主に、政府、業界を中心とする過去の原資料を丹念に整理、分析し、かろうじて生き残る数少ない関係者へのインタビューを実施、可能な限りの歴史的経緯の分析を行った、はじめての専門研究書となった。
「アスベストは奇跡の鉱物だったので、被害がでたのもやむを得ない面があった」という「常識」が極めて疑わしいことを史実をもって示し、拡大したアスベスト禍についての政府、業界の責任は極めて重大であることを読む者に感じさせてくれる。本書は1970年代はじめまでの分析にとどまっており、著者達の今後の研究が切望される。
本書が刺激となり、いまだ多くを語ろうとしない、いわゆるアスベスト専門研究者、医師、関係者が真実を語り始めるきっかけになればと強く感じるところだ。
アスベスト問題にかかわるすべての関係者の必読の文献といえるだろう。